ジャッカルの日

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『人間兇器』―10分でわかる美影義人の逃亡浣腸人生

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 原作・梶原一騎、画・中野喜雄によるバイオレンスカラテアクション『人間兇器』をKindle Unlimitedで読んだんですが、たいそう面白かったし酷かったです。

 

 Kindle Unlimitedはバイオレンス、ノワール系の劇画もなかなか充実している。少年漫画らしからぬ過激さの『ドーベルマン刑事』、特に警察ではない主人公が毎回数億円稼ぎだして十数人くらい殺す『野獣警察』、極悪非道の殺人鬼が終盤なぜか普通のヒーローになってしまう『堕靡泥の星』などなど…。
 この系統では大御所中の大御所、梶原一騎原作作品もわりと充実している。『カラテ地獄変牙』『新カラテ地獄変』『若い貴族たち』『男の星座』、いずれもカラテ暴力と暗い情熱と時事ネタ混じりのハッタリに満ちた傑作ぞろいだが、それらの中でも個人的に衝撃を受けたのがこの『人間兇器』である。具体的に何がスゴいのかというと主人公の美影義人で、ここまで最悪かつ情けない男はなかなか見られるものではない。なりそこないダークヒーローであり、長編劇画の主人公としては完全に失格レベル。

 梶原先生のバイオレンス劇画の主人公には「強いけどめちゃくちゃワルくて暴力的、頭も回るけどその一方で俗な部分が抜け切れていない」みたいな男がよく出てくるが、『人間兇器』の美影はマイナス要素の振り切れ方があまりに大きすぎる。気に入らない相手はカラテで殴り、カラテで敵わない場合は人質を取って逃げ出す。女を見れば犯し、それが上流階級の女であれば浣腸する。こいつの人生は暴行と逃亡と浣腸の繰り返しで、それ以外の要素は一切無い。自分より弱い者には強く強い者にはとことんヘタレる情け無さ、なにをやっても長続きしない根性の無さ、性欲のせいでいらん失敗を何度も繰り替えす学習能力の無さ……。なにひとつ人間として評価できる部分がない。こんな男が主人公の作品を「半自伝である」と言い切ってしまう梶原先生もすごい。

 以下、備忘録を兼ねて『人間兇器』全巻のあらすじを、個人的に好きな美影の登場シーン(命乞い中心)を添えつつ記していこうと思う。

 

【『人間兇器』1~6巻 あらすじ】

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『人間兇器』1巻22ページ

 本作は主人公・美影が少年院にブチ込まれたところから始まる。主人公が少年院から始まる梶原漫画も多すぎて、おれみたいなニワカだとどれが何やらはっきり思い出せないのだが、美影の場合は「黄金バットが嫌い」というひときわイカれた動機で少年院行きが決定しているので印象深い。「正義の味方なんぞ糞くらえ」という幼稚な理由で振るわれた暴力、いかにも思春期特有の衝動という感じがするが、全23巻に及ぶコイツの人生はすべてこれと同レベルの動機で人に迷惑をかけまくっているだけである。

 

 美影は実践空手「空心会」に入門し、そこの総帥である大元烈山に才能を見込まれる。「自らを最強の兇器として鍛え上げる」との野心を抱き、気に入らないヤツを半殺しにしたり女をレイプしたりする傍ら空手に励む美影だったが、桔梗十八郎と名乗る腕利きにボコボコにされ最初の挫折を味わう。

 空心会の勢力拡大のため鹿児島に送り込まれた美影は「旭掌拳」なる流派の総帥、盲目の美女・朝日奈薫子であることを知り、下卑た欲望丸出しで襲いかかるが、これまたボコボコにされてしまう。桔梗と薫子の過去の因縁を知った美影は「殺される!」と怯え、なんの関係もない女子大生を人質にして立てこもるものの、激高した桔梗に完膚なきまで叩きのめされる(当たり前)。

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『人間兇器』2巻199ページ

 進退窮まった美影は「たひゅけてくれえ~~ッ!! たひゅけて……ひょれだけは……あ……あひゃまる!」と謝罪するが当然聞き入れてもらえない。身から出た錆とは言え大ピンチ! といったところで大元烈山先生が助けに来て桔梗をカラテ制裁してくれたので助かった。ここまでの詰め込みっぷりでわずか2巻である。この後、美影が世界を股にかけてヤンチャの限りを尽くし、どうにもならなくなった時点で烈山先生が助けてくれるがすぐに逃げ出してまた同じようなことを繰り返すという展開が延々続く。

 

 なぜか薫子といい仲になった美影は子供まで作るが、親になるのはまっぴら御免と、薫子から逃れるように空心会・ニューヨーク支部へと身を移す。暗黒地下プロレスvs大元カラテの抗争を経たのち、ハリウッド女優に浣腸したりなど好き放題したあげくチンピラ連中を配下にして空心会を裏切り、カラテ試合による全面戦争をしかけるが大方の予想通り完敗。暗殺者を雇っていたのもバレてしまい、試合場から逃げ出して行きずりの女を人質にしたりするが兄弟子たちにとっ捕まえられる。

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『人間兇器』6巻173ページ

 人間サンドバッグにされた美影は「たッ 助けてくれえ~~!! 命ばかりは……腕一本くらいで ゆ 許してくれえ!」と命乞い、なんとか烈山先生に許してもらう。逃げだすようにフロリダへと身を移した美影はホモを殴って女をレイプするのであった。「美影義人よ 何処へゆく⁉」(6巻最終ページより)

 

【7~11巻 あらすじ】

 美影は覆面ヒールレスラー「ザ・カミカゼ」と名乗り、メキシコプロレス界で名を上げていた。悪役としての生活に飽きた美影はプロモーターの娘を浣腸したり、恥ずかしい写真を撮ったりして脅迫するのであった。

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『人間兇器』7巻116ページ 

 悪役から一転、ヒーローとして映画の主役まで張るようになる美影だが、大元烈山と空心会がメキシコくんだりまでやって来てザ・カミカゼの正体を暴きにかかる。美影はメキシコ最強の悪役レスラー・台風仮面サガトラと烈山の試合を組み、プロレスにかこつけて烈山を抹殺しようと企むがもちろん烈山が勝利。ビビった美影は試合会場を後にしキューバまで逃亡。

 

 おりしもキューバは革命の真っ最中であった。牢獄にとらえられた美影は「自分は革命軍の忠実なる味方のつもりでありまーーすッ」と囚人たちの脱獄情報を密告、その功績を認められ革命軍のカラテ教師となる。しかしカラテ鍛錬と称して女をいたぶっていたところをチェ・ゲバラに見咎められまた投獄。この後もアメリカンマフィアとの交渉の人質にされたり、マフィアのボス・ロッコの情婦マチルダを寝取ったりしたのち、マフィアに取っ捕まってしまう。地下プロレス界に放り込まれ「カラテ・キッド」としてデビューすることになった美影。その頃、マチルダはロッコの部下に浣腸されていた。

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『人間兇器』10巻176ページ 

 マチルダと美影との関係を知ったロッコは美影の処刑を決定。窮地の美影を救ったのは、彼を追って地下プロレス界に女ファイターとして潜入した薫子と、毎度の如く大元烈山であった。FBIとの関係をちらつかせてマフィアを黙らせた烈山は美影と薫子を地下プロレス界から解放する。

 

 

【12~15巻あらすじ】

 薫子、そして息子と再会した美影は日本へ帰国する途中でハワイに寄るが、女をレイプした後ボートに乗って逃亡、遭難してしまう(もうこの辺りまで来るとこいつの無計画性とこらえ性の無さには驚かなくなる)。美影が流れ着いたのはロカビリーの帝王、ブルボン・バルチモアのハーレム別荘であった。ブルボンの警備兵を倒して島を乗っ取り、ソドムの市の如く堕落した楽園生活を繰り広げる美影。

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『人間兇器』12巻167ページ 

 だが戦闘ヘリから潜水艦まで持ち出して大挙訪れたハワイ警察の前には手も足も出なかった。人質を盾にする美影に対し、ハワイ警察は薫子を説得のため向かわせる。もうこの人には何を言ってもムダだと(ようやく)悟ったのか、薫子はカラテで美影を黙らせた。

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 『人間兇器』13巻75ページ 

 裁判にかけられ、懲役20年の判決を受けた美影は薫子に向かってわめき散らす。「う 恨んでやるぞおッ 貴様!! 恨んで恨んで呪い殺してやるう! い…いや おれが悪かったんだッ 恨まねえから まだおれをすこしでも愛してるなら 子供のためにもよう 腕利きの弁護士を雇って上告してくれ~~!!」

 

 ネバダ砂漠の刑務所に収監された美影。カマを掘られたり、面会に来た大元烈山にビビり散らしたりして、己の兇器がいかに卑小なものであったかを思い知る。囚人たちに目をつけられイビられる美影だったが、読者にとってはおなじみの命乞いムーブを利用してまんまと脱走を果たす。

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 『人間兇器』13巻183ページ 

 でかい岩をこちらに投げつけるよう囚人たちを誘導し、電流有刺鉄線網を破るという頭脳プレイであった。命乞いっぷりが堂に入り過ぎていてとても演技に見えないが。

 逆ギレした美影は刑務所所長の家へ押し込み、妻と娘を人質にしてヘリコプターで逃亡。さすがに世界的な凶悪事件として報道されてしまい、美影との関係を糾弾された大元烈山の空心会は全支部を閉鎖する羽目になってしまった。

 ロッキー山脈へとヘリを向かわせた美影だったが、パイロットの機転によりひとり雪山に取り残されてしまう(ざまあ)。ほぼ素っ裸の状態で冬山をさまよう美影の前に現れたのは…巨大グリズリー! 失禁する美影の脳裏を走馬灯が走る。

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『人間兇器』14巻114ページ

 この後も悪運尽きず、グリズリーを倒したのちガールスカウトを人質にして国外逃亡を図る美影だったが、パイロットに変装した烈山の三角蹴りで失神、ネバダ刑務所に再収監される。当然ながらブチ切れた所長に熾烈な拷問を受けるも、面会に来た烈山はネバダ刑務所のカラテ教官として就任。美影は烈山とともに囚人たちを指導する立場となった。ちなみにこうまで烈山が美影の面倒を見てくれる理由は「後継者としてふさわしい素質があるから」というもの。いくら素質があっても国際的な重犯罪者だし、コイツの性根は一生直らんと思うのだが、案の定烈山の真意を聞いてもなお「後継者というからには終身班同然の身をいつかは刑務所から出す算段があるらしいぜ!威張りまくって快適に暮らさにゃ!」と何一つ変わっていない美影。そうでなくっちゃ!

 

【16~18巻あらすじ】

 烈山とともに女子刑務所へカラテ指導に来た美影は、サディストの女医が囚人に浣腸している場面を見て興奮、女医に馬用の浣腸を施しているところを烈山に見られてしまう。帰りの車内で延々と弁明を続けているうち、沈黙を保っている烈山に恐怖した美影は車を飛び降り逃走。速攻で捕まりお仕置きされた。

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『人間兇器』16巻112ページ

 ヤケクソになった美影(こいつはいつもヤケクソだが)は隙を見て再び逃走を決行。銀行強盗ののちCIAにとらえられるが、反戦のシンボルとして名高い歌手、イブ・レスリーをカラテで始末することを条件に日本への帰国を許されるのであった。日本への飛行機内でイブを殺せという指令を受けるも普通に失敗した美影、もう後はないとホテルのボーイに化けてイブの部屋へ潜入。だがイブは末期の梅毒だったため犯すことができず、そのまま説得されて何もせず部屋を出るのであった。まともな仕事・闇の仕事に関わらず、ここまで何一つ完遂できない男もそうはいないと思う。

 CIA、そして帰国した大元烈山から身を隠すように、スケバン連中のヒモになりながら機をうかがう美影だったが、ふと薫子が暮らす沖縄へ行こうと思い立つ。が、沖縄の地で美影が見たのは薫子と名も知らぬ自分の息子、そして彼らの夫として、父として暮らす桔梗十八郎の姿であった。さすがに心が折れた美影はヤケクソになり(こいつはいつもヤケクソだが)、米軍の女憲兵をレイプ。憲兵の通報で居場所をCIAに知られることとなるが、いつの間にか沖縄に来ていた烈山に救われるのであった。よかったね。

 

【19巻~23巻あらすじ】

 大元烈山は空心会に代わる新団体「ザ・格闘技」を立ち上げ、プロレスに挑戦状を叩きつける。団体に加えるつもりなのか、「心身を鍛えよ」との書状を薫子に持たせ美影のもとへ使いに出す烈山だったが、美影は烈山の名前を聞いただけで怯え、書状も読まずに逃げ出してしまった。

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『人間兇器』19巻88ページ

 ザ・格闘技は旗揚げ興行として、プロレスと懇意にある全米マーシャルアーツとの試合をマッチングする。会場に潜り込んだ美影はカラテの弱点をマーシャルアーツ側に流すが、もちろん烈山は勝利してしまう。プロレス側は引き続いての情報提供を美影に求め、次なるザ・格闘技への刺客、超巨人ミゼラブルのスパーリング相手としてスカウト。弱みを握られているため従わざるを得ない美影は、ミゼラブルに尻も捧げることになった。

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『人間兇器』20巻92ページ

 ミゼラブルはさすがに強く、大元烈山との試合は引き分けとなり、お互いにメンツを保つかたちとなった。それはそれとして、特に必然性もなく悪役女子レスラーと組んで売れっ子女子プロレスラーに浣腸していた美影は女子プロレスオーナーの怒りを買ってしまう。怯えた美影は「薫子を代わりに戦わせるから許してくれ」と、ここまでの最低発言ムーブをなお更新する外道プレゼンで難を逃れる。その頃、当の悪役女子レスラーは水道浣腸されていた。

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『人間兇器』21巻39ページ

 薫子は覆面レスラー「ミス・桜」としてデビューし大人気となった。よかったね。

 さて、プロレスからの大元烈山への次なる刺客は“幻の帝王”こと覆面レスラー、ミスター・フー。フーのスパーリング相手として呼ばれた美影だが、彼のカラテはまったく通用せず、学ぶところの無い用無しと認定される。見捨てられそうになった美影は「薫子を大物政治家・五木玉堂に抱かせるから、おれを海外に脱出させてくれ」と懇願。どこまでも“最低”のハードルを下げてくる男。五木と薫子との密会写真を隠し撮りした美影は五木を脅迫、みごと秘書としての地位を手に入れるのであった。

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『人間兇器』21巻161ページ

 いよいよ大元烈山とプロレス界最強の刺客、ミスター・フーとの金網デス・マッチが始まる。政治家秘書としての立場を最大限に利用する美影、「烈山を冒涜するにはデス・マッチをレズ・マッチのかたわらに見るしかない」というよくわからない理屈のもと、大物スターとその付き人を裸にひん剥きながら試合を見守るのであった。結果は烈山の勝利、ミスター・フーの正体はプロレスの神様ことカール・イスタスであった。烈山が大物レスラーに勝つ→烈山のカリスマが復活→自分は再び狙われる、という方程式を即座に描いた美影は錯乱、五木の信頼を得るため与党代議士の娘の尻をテニスラケットで叩くなどハッスルする。

 

 五木は政界での地位をさらに固め、美影も第一秘書としてその立場を盤石なものとした。一方、烈山は覆面を脱いだカール・イスタスとネイルボード・デス・マッチで再戦。死闘の末イスタスは発狂した。カール・ゴッチがモデルのキャラクターがヨダレを垂らしながらへらへらと笑うビジュアルはなかなかに壮絶なものがある。「これもすべて美影のせい」と断じた烈山は(半分以上は烈山のせいでは?)総力を挙げて美影の抹殺へと向かう。

 烈山、薫子、桔梗をはじめとするザ・格闘技の精鋭は、堕落した生活を送る美影を別荘にて追い詰める。「空手家として烈山と戦い、そして死ね」との勧告を受けるも「じょ……じょッ 冗談じゃねえ! こ こちとら秘書稼業とゼニ勘定でカラテなんざ忘れかけてるってのに……ヒィッ」と、自分の息子を人質にして逃げだす美影。逃走中に女暴走族に絡まれ腹を立ててカラテ制裁、裸で逆立ちさせ大喜び。そんなことをやっている間に烈山たちに追いつかれてしまった。

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『人間兇器』23巻214ページ

 「ワ…ワッ アワワワワッ!! おッ おれをどうしようってんだあ!? い 現在のおれは政界の巨頭・五木玉堂の秘書だぞォ 筆頭秘書だぞ! ら…来年は衆院選に打って出る身なんだッ あんたらとは別世界の人間なんだあ もう!」「大元先生ッお許しを!! た 頼むう 後生だッ薫子……薫子さん おれ達のあの子のためにも命乞いしてくれよッ 立派な父親に生まれ変わるから! 誓います!!」しかし美影の必死の虚勢、最期の懇願に耳を貸す者は誰もいなかった。研ぎ澄まされた兇器にならんとしていた男は、他人の兇器に成り下がることで研鑽を忘れた。錆びついた兇器の一振りは、大いなる畏怖と感謝を抱くべきであった師にも、共に己を磨くべきであった門下生たちにも、本来は刃を剥けるべきでなかった妻や子にさえ届くことはなかった。

 

 最終的に美影は息子を守って死ぬのだが、果たしてそれは彼が最後に目覚めた良心から来るものだったのか。何度失敗しても、何度裏切っても救済の手を差し伸べてくれた烈山がついに見限った時、ようやくひとかけら残されていた良心が姿を見せたのか。

 「生き汚い」という言葉をここまで体現しているキャラクターはいないんじゃないかと思うほど、美影の生きざまは強烈だ。それと同時に描かれるのが大元烈山という人間の得体のしれない狂人っぷりであり、この一点においては大山倍達と彼をモデルにしたキャラクターが登場するどの類似作品と比べても勝っているんじゃなかろうか。美影の生きざまは感動や共感とは程遠く、あなたの人生を豊かにしてくれるものかどうかは甚だ疑問であるが、本作に23巻まで続くパワーと読者からの支持があったこともまた事実である。とりあえず本作を読んで「梶原一騎すげえなあ」と思ったかたは、残虐さと陰惨さがパワーアップしたダークカラテ最終章『新カラテ地獄変』(原作・梶原一騎 画・中城健)も読んでいただきたいものです。