ジャッカルの日

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『異形コレクション』1200編からガチで選ぶマイベスト10

 

 

 マジか。

 マジだ!!!!!!!!!!

 いやもう、本当うれしいね。自分の血肉となっているようなシリーズなので、刊行再開には心の底からワクワクしてるんよね。

 

 『異形コレクション』は、1998年に刊行された文庫本シリーズ。毎巻決められたテーマをもとにホラー・SF・ミステリ・ファンタジー・実験小説といったさまざまな「異形」の作品が集められたオリジナルアンソロジーなんよ。1冊につき5~600ページ、20作前後を収録しているのでなかなかの読み応え。そんな分厚い文庫本のシリーズが既刊48巻も刊行されていて、スピンオフ9巻、別冊1巻、傑作集1巻も含めれば、書き下ろし作品だけで1200編前後の異形作品が掲載されたことになるんやから驚くよね。

 

 『異形コレクション』はとにかく凄かったよね。編纂者の井上雅彦は序文、構成、各作品の紹介において完璧な仕事を見せてくれたし、参加者も名だたる短篇の名手、怪奇のベテランが勢ぞろい。菊地秀行、横田順彌、山田正紀、朝松健、梶尾真治、加門七海、津原泰水、久美沙織、倉阪鬼一郎、篠田真由美、平山夢明、小中千昭、渡辺浩弐、上田早夕里、小林泰三といった豪華メンバーの短編が、2・3ヶ月に1冊のハイペースで読めるんですからアナタ。読書の原体験が星新一で「小説は短ければ短いほど、1冊にたくさん収録されていればいるほど、バラエティに富んでいれば富んでいるほどいい」みたいな短篇至上主義から抜け切れていないおれにとっては至福のシリーズでしたよ。オリジナルアンソロジーは玉石混交と言われるが、各作品のクオリティもかなりのものやったよ。

 というわけで、思い入れ深い『異形コレクション』の中から「私的ベスト作品10」を紹介しようと思うんよね。正直なところ1200編すべてを完全に把握しているわけではないんやけど、「コレすごかったな~!」とパッと思い出せたのだけでも10編や20編じゃ収まらんかったんよね。異形コレクションファンの皆さんのベスト10もマジで知りたい。きっとみんなゲギョゲギョ唸りながら悩むと思う。

 じゃあ、以下順不同で私的ベスト10です。

 

●DECO-CHIN(中島らも/30巻『蒐集家(コレクター)』収録)

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 音楽雑誌記者が出会ったバンド「コレクテッド・フリークス」には、他のバンドとは決定的に違う箇所があった。彼らにしか生み出しえない音楽の魅力にどんどん彼は引き込まれていくのだが…。

 中島らもの遺作なんやけど、氏の小説の持ち味すべてをブチ込んだような奇跡の傑作に仕上がっているんよね。10周年記念の別冊『異形コレクション讀本』で、参加作家に「いちばん心に残っている作品は?」とアンケートする企画があったんやけど、もっとも票を集めたのがこの作品だったんよ。異形のはみだし者たちへの温かい視点、劇中バンドの詞の格好よさに加え、グロテスクと笑い、純愛とトンデモ、様々な要素が混然となった奇想天外としか言えない一編よね。
 中島らもは本作のほか、わりと凡庸な怪談「コルトナの亡霊」(23巻『キネマ・キネマ』収録)、実体験そのまんまとしか思えないアル中小説「頭にゅるにゅる」(24巻『酒の夜語り』収録)を寄稿してます。もっともっと読みたかったよね…。

 

●サラ金から参りました (菊地秀行/12巻『GOD』収録)

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 金融会社の取立人である「おれ」が向かうのは、とある新興宗教団体の本部。3000万耳揃えてキッチリ払ったらんかい! と乗り込むも、建物のなかはもぬけの殻で、信者の服だけが残されていた。なぜ服だけが? なんらかの存在が、彼らの肉体だけを消し去ったとでも言うのか? 馬鹿らしい。おかしな手品でごまかすくらいならさっさと金払ったらんか~い!

 メチャクチャにやばい「神的存在」と、それをまったく意に介してないチンピラとの対比が愉快な1編。神をテーマにしたこの巻『GOD』では、ホラー界隈では有名過ぎるあの神とその眷属もバンバン出てくるんやけど、まさかサラ金と組み合わされるとはな~! 『異形コレクション』ほぼ全巻に寄稿しているレギュラー作家の菊地秀行、さすがの巧者っぷりよね。

 

●3D (町井登志夫/23巻『キネマ・キネマ』収録)

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 首の激痛を訴える主婦が病院に担ぎ込まれる。CTスキャンを撮ることになるが、「フィルム現像機の臭いを気にする」「造影剤に発作を起こす」など、奇妙な点がいくつも見られた。さらに患者の幼い息子は「お母さんの作る料理が急にまずくなり、とても食べられない」と訴える。
 検査結果からはガンであるとも腫瘍であるとも言い切れず、医師たちは患者の首を3D-CTで撮影してみることに。医師たちの目前に映し出された写真は、異様極まるものだった…。
 この巻のテーマは「映画」。この作品にも確かにフィルムもムービーも出てくるんやけど、反則ギリギリの離れ業。町井登志夫の『異形コレクション』寄稿作には、毎回「現代の妖怪」という裏テーマがあるんよね。自身が得意とする医療関係の舞台設定・描写もうまく搦めてあり、さながら「映画・医療・妖怪」の三題噺のような巧みな構成を楽しめるんよ。
 町井氏の『異形』作品の中でも本作はひねくり方が際立っていて、ラストも「なんで“映画”テーマでこんなことになってしまうんだよ!」と叫びたくなるような凄惨さでインパクト大。地獄絵図としか言いようがなく、読んでる方も思わず大喝采のスタンディングオベーションを送るよね。

 


●新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け (田中啓文/9巻『グランドホテル』収録)

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 そのホテルのフレンチレストランでは、ヴァレンタインデーの夜にのみ提供される特別料理が密かな人気を呼んでいた。味も香りも食感も極上、一口食べれば忘れられないという究極の美味。その料理の材料は、シェフただ1人しか知らないという…。

 6巻『トロピカル』収録の「オヤジノウミ」14巻『世紀末サーカス』収録の「にこやかな男」21巻『マスカレード』収録の「牡蠣喰う客」など、田中啓文の寄稿作品はグチャグチャでゲロゲロな作品ばかりで素敵すぎ! 本作も“ニグ・ジュギペ・グァ”という語感からぼんやりと不穏なものを想像する人もいるかもしれんけど、おめでとう! 正解やね。この世の物ならざる美味な料理と、実際にこの世のものならぬ醜悪なアレ。振り幅広い描写の冴えがすばらしく、グロテスクなのについつい読み進めてしまう喉越しの良さが一流シェフのワザマエなんよ。
 この巻のテーマは文字通りのグランドホテル方式。舞台となるグランドホテルの構造や主要人物・施設名を寄稿者で共有し、とあるヴァレンタインデーの夜を描くという凝った構成やね。いつものテーマ・アンソロジーとはまた異なる味わいを持つ傑作巻で、26巻『夏のグランドホテル』という続編も出ております。

 

●げろめさん (田中哲弥/19巻『夢魔』収録)

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 男はいつしか夜の学校にいた。混濁する意識の中、学校を探索する彼の脳裏に浮かぶのは連絡のつかない妻、そして「げろめさん」なる怪異のことだった…。

 時に甘酸っぱく、時には不快な過去との邂逅。混乱する時間感覚。ありえない構造の建築物。グロテスクな人外の怪物…。悪夢にありがちなモチーフが散りばめられた、要約不能な1篇よね。

 げろめさんはその名の通り、目玉が吐瀉物でできているというオバケ。いくら怪談でもあんまりというか、雑にキモチ悪いビジュアルを持つげろめさんが八面六臂の大活躍! …するかというかそうでもなくて、あくまでげろめさんは主人公の心象を反映させた存在にすぎないというか。そういう幻想的な作品やね。どうもグロい作品ばかり続いている気がするけど、やはりインパクトが強いのと、おれ自身の好みがアレなのでそこは申し訳ないです。
 田中哲弥の『異形』寄稿作ではビジュアルイメージが凄まじい「猿駅」(6巻『トロピカル』収録)、リョナという言葉が生まれる前に書かれたリョナ文学「初恋」(12巻『GOD』収録)が思い出深いし、これらの作品や「げろめさん」も収録された短編集『猿駅/初恋』(早川書房)は傑作揃いの異形短編集なんでぜひ読んで!

 

●ママ・スイート・ママ (安土萌/2巻『侵略!』収録)

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 みよちゃんが幼稚園から帰ると、ママがお菓子になっていました…。
 本シリーズのアンソロジストである井上雅彦は「星新一ショートショート・コンテスト」がデビュー。このコンテスト出身の作家は枚挙にいとまがないんやけど、『異形コレクション』でもコンスタントにショートショートを寄稿していたのが安土萌と江坂遊の2人やね。その作品の水準の高さは初期の「ショートショートの広場」でもひときわ輝いておりました。江坂遊作品は氏の短編集で読むことができるんやけど、寡作の安土萌にはいまだまとまった短編集が無いらしいんよね。ほんと、安土作品を読むには『異形コレクション』を追いかけるくらいしかなかったりする。
 2巻『侵略!』はSFホラーが多く集まった巻やけど、「ママ・スイート・ママ」はその中でもとりわけ奇妙な、それでいてまぎれもなく恐ろしい“侵略”を描いている、一度読んだら忘れられない4ページ作品やね。本当に、どこかで安土萌作品集出してくれないかな…。

 

●魚舟・獣舟 (上田早夕里/36巻『進化論』収録)

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 ほぼすべての大陸が海に沈んだ世界。海上民としての暮らしを捨て、陸上民としての人生を選んだ「私」は、獣舟討伐隊の任務に就いていた。海上民は必ず双子として産まれる。一方はヒトの姿だが、もう一方は魚の形をして産まれてくる。やがて成長したヒトと海へ返された魚は〈操舵者〉と〈舟〉として関係を結ぶが、〈操舵者〉に捨てられた〈舟〉は獣舟へと姿を変え、陸にあがって資源を食い荒らす害獣となる。
 とある満月の夜、私は立ち入り禁止区域に美緒と名乗る海上民が侵入したとの報告を受ける。彼女はかつて、私と同じコロニーで暮らした幼なじみだった。美緒は「獣舟狩りを中止して欲しい」と私に訴える。かつて彼女の朋であった魚が、獣舟となって上陸してくるのだという…。
 一読後、その濃密な世界設定にすっかりやられてしまったんよ…。わずか30ページに収まっているのがとても信じられないレベル。本作の世界観は「オーシャンクロニクルシリーズ」としてその後も展開され、長編作品にも発展しております。その中の1作、『華竜の宮』は日本SF大賞受賞作品やね。
 36巻『進化論』にはSF作品も多く収録されていけど、脳内で容易に再現可能な本作のビジュアルは際立ってたね。水没する高層ビル、一生を船上で暮らす海上民の生活、平成ガメラを思わせるような異形の進化存在、ラストで「私」が思い描く壮大なる外海のイメージ…。ほんと、映画1本観終えたかのような読後感やったね。
 上田早夕里の『異形コレクション』寄稿作品は、単行本『魚舟・獣舟』『夢みる葦笛』(ともに光文社)でまとめて読めます。個人的には38巻『心霊理論』収録の「くさびらの道」も忘れがたいね。「人間に寄生し憑り殺すキノコ」というB級映画のような題材を恐ろしくももの哀しい幽霊譚に仕上げた一編で、これがまたエエんよ。

 

●穴 (高橋葉介/8巻『月の物語』収録)

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 傍らに転がった女の死体をよそに、青年はスコップで穴を掘る。ようやく深い穴を掘り終え、女を埋めて安堵の表情を浮かべる。しかし、ふと横を見るともう1つの死体が…。

 『異形コレクション』には小説だけのアンソロジーやなくて、漫画、絵物語、グラビアなども掲載されとったんよね。本作を描くのは怪奇幻想の大ベテラン・高橋葉介で、漫画ならではのビジュアルイメージがオチに繋がる異形作品やね。
 漫画家の中で『異形コレクション』参加回数がいちばん多いのが高橋さんやね。42巻『幻想探偵』で「夢幻紳士 怪奇編」を寄稿しているほか、20巻『玩具館』27巻『教室』では各作品の扉絵も担当しているんやけど、ただのイラストではなく、それぞれ「玩具」「教室」をテーマにしたヒトコマ漫画として成立しているのが流石よね。ちなみに週刊チャンピオン連載作品『恐怖症博士(ドクター・フォービア)』は、『異形コレクション』の22巻『恐怖症』をヒントに生まれた、という裏話もあります。

 

●ロコ、思うままに (大槻ケンヂ/33巻『オバケヤシキ』収録)

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 少年・ロコが暮らす世界には、人形のフリークスたち、「イエス様」を自称する狂った父親が住まう蝋人形館しか存在していなかった。しかし蝋人形館を訪れた少女・リサと出会ったことで、ロコは新たな衝動に突き動かされる。

 オーケンの小説は軽く平易な文体で書かれていて、パッと見では彼の歌唱力と同じくずいぶんプリミティブであるなあなどと思ってしまうんやけど、これは作中人物ではなく作者自身に感情移入させるためのテクニックやないかと思うんよね。オカルトや電波な人といったはぐれもの(それこそ「異形」と言っていいかもしれない)への「憧れ」と「ひねくれた視線」が両立するオーケン小説は、唯一無二の読書体験をもたらしてくれます。
 「ロコ、思うままに」はオーケンがアーティストとしても第二の全盛期にあった(と個人的に思ってる)ノリノリの時期に書かれた1作で、少々甘ったるさが過ぎる気もするんやけど、本作で描かれる『オバケヤシキ』の定義にはかなりの感銘を受けました。ホラーというジャンルそのものの存在意義と言ってもいい解答かもしれんね。
 ちなみにオーケンの寄稿作のうち、インパクトだけで選ぶなら「龍陳伯著『秘伝・バリツ式携帯護身道』」(35巻『闇電話』収録)やね。“異界や冥界から電話がかかってくる”以外に書きようがない「電話」というある意味難しいテーマに対して、反則と悪ノリで挑んだクソバカ小説。いや。小説じゃないな。なんだこれは。としか言いようがないアレやね。

 

●ミライゾーン (間瀬純子/40巻『未来妖怪』収録)

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 脚本家の高杉敬二は、40年前の特撮ヒーロー番組「ミライゾーン」のリバイバルアニメを担当していた。シナリオの参考にするためテレビ版を撮影した老監督の話を聞く敬二だが、「ミライゾーン」の脚本家はカルト教団に関わっていただの、ミライゾーンは未来から来なかったことにしてほしいだの、胡乱な発言ばかり繰り返す監督に辟易する。
 改めて新作「ミライゾーン」の脚本に取り掛かる敬二。しかし、“未来から来たヒーロー”であるミライゾーンは、いつしか敬二自身の体験を侵食していた。敬二の過去と現実が、ミライゾーンに取り込まれていく…。

 「特撮ヒーローのシナリオと自分の過去がリンクする」という本来ならワクワクするような出来事を、どうしてここまで不穏に描けるのか。おれが無職のころ、ヒマにあかせて品川水族館から東京港野鳥公園へのコンボをキメた日にポカポカ陽気のもとベンチに座りながら読んだ1作なんやけど、なんでそんなことを覚えているかというと、読書体験が異常過ぎてその日のことが脳裏に焼き付いているからなんよね。幻想的というよりは風邪で寝込んだ日の悪い夢のような作品でありながら、文章には鮮烈なリアリティがある。これは白昼夢ではなく、まぎれもない現実であると突き付けられているような感覚に汗が冷えるというか…。解説不能なラストシーンは、ヒーロー番組の単純明快さとは真逆の妖しく深い霧に包まれていて、本当に忘れがたいんよ。
 特撮というネタを扱っておきながら、いわゆるオタク的なくすぐりを一切やっていないのもミソやね。ファン心理とは無縁の視点から描かれた特撮ヒーローの姿は、確かに「未来の妖怪」と呼ぶにふさわしいものかもしれんね。個人的には怪奇小説オールタイムベスト10に入る傑作。

 

 ●花菖蒲 (横田順彌/2巻『侵略!』収録)
 
 最初にベスト10と言ったけど、すまん。ありゃウソやったね。
 横田順彌は古典SF研究家でもあり、実在した明治の冒険小説家・押川春浪についての著作も多いんやけど、『異形コレクション』でも押川春浪が主役のシリーズ作品を寄稿してたんよ。もちろん評伝の類ではなく、春浪とその周辺の人物が語るSF連作集で、明治の時事風俗の描写がメッチャ面白いんよ。この連作をまとめた『押川春浪回想譚』は超オススメ。
 「花菖蒲」は、死期を悟った春浪の「失われた作品」についての奇譚。『押川春浪回想譚』では最終話として収められているだけあって、これがまたなかなか衝撃的な幕切れなんよ。

 

●椰子の実 (飯野文彦/11巻『トロピカル』収録)

 泥酔明けの朝。肌を焼く日差し。神経を苛立たせながら渋谷の街をふらふら歩く主人公は、偶然出会った知り合いから椰子の実を受け取るが…というお話。短いながらも恐怖度ではトップクラスで、かつて「怪奇探偵小説」と言われていた類の雰囲気も備えた一品。むわっとした不快な熱気が漂ってきそう。『トロピカル』収録の話がちょくちょく出てきてるけど、個人的にはかなり好きな巻かもしれんね。

 

●宇宙麺 (とり・みき/15巻『宇宙生物ゾーン』収録)

 宇宙生物がテーマのこの巻、とり・みきが描いたのはラーメン状のエイリアンだった! バカバカしくもグロテスクな笑いで、『異形コレクション』のコミック作品の中でもひときわ印象深い1作やね。

 

●ランチュウの誕生 (牧野修/36巻『進化論』収録)

 すさまじい胸糞ホラーで、品種改良という名のいびつな進化を遂げたランチュウの境遇に、複雑な思いを抱かざるを得ない傑作やね。どうも単行本未収録らしいんやけど、もったいないとしか言えんね。この凄まじい悪意の奔流、もっと人の目に触れるべき邪悪なアレやわ。

 

●苦艾の繭 (吉川良太郎/24巻『酒の夜語り』収録)

 いろいろな「酒」がテーマの巻やけど、本作で取り上げられているのはアブサン(ニガヨモギを使用したリキュール)やね。それをこういう使い方するのかよ! というアイデアだけでもう度肝を抜かれてしまったよね。ハードボイルドな文体もテーマに合っていて雰囲気良し!

 

●フォア・フォーズの素数 (竹本健治/20巻『玩具館』収録)

 『玩具館』は古典的な人形怪談からドリキャスの『シーマン』まで、多彩なおもちゃが勢ぞろいした巻やね。本作で登場するのは「数字」。4つの「4」と4つの記号を使った自然数を作るというパズル遊びのことなんよ。少なくともホラーではない気はするけど、小説としては間違いなく「異形」で、改めて本シリーズの幅の広さというものを思い知らされた1編やね。

 

 本当にキリないからこの辺にしとくね。さっきWikipediaチェックしてたら「そういえばこんなんもあったわ」ってのがバリバリ出てきたけど、いずれちゃんと1200編も読み返したいし、もちろん最新刊の49巻・50巻も含めて改めて評してみたいという気になってきたから…。新刊バリ楽しみやね。あ~~。

 

※この原稿は「二級河川22 怪奇は踊る」収録の原稿に加筆修正したものです。

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胸糞8割・いい話2割のSF恐怖ドラマ『ブラック・ミラー』全ガイド

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 ※初出「二級河川22 怪奇は踊る」 金腐川宴游会 - BOOTH

 

 今回のホラー特集、ぜひ『世にも奇妙な物語』についても取り上げたかったのだが、根本的な問題として「再視聴が難しすぎる」というのもあり断念した。権利関係がアレ過ぎるせいでソフト化はほぼ絶望的、ようつべの違法アップロードで観られるのはまだいい方で(よくないが)、どこにもうpされてないエピソードはうろ覚えで書かざるを得ないので早々に諦めた(個人的には「峠の茶屋」「三人死ぬ」「ロンドンは作られていない」「サブリミナル」「ファナモ」辺りが印象深い)。でもな~。観てェよな~。『世にも奇妙な物語』そのものじゃなくてもいいんだよ、ちょっぴり怖くて少し不穏(SF)で、1話完結でどこからでも観られて、できれば映像も美術も役者の演技もクオリティ高くて、長くても1時間くらいで終わるテレビドラマシリーズをよ…。
 とか思っていたらNETFRIXで見られる「ブラック・ミラー」が完全に条件を満たしていたので良いよ、という話です。これ観たさに契約しちまったけど、“街のビデオ屋さん”的なAmazon Primeとはまた違う“マニアのLD観賞会”みたいな雰囲気があっていいですねネトフリ。いま本当に雰囲気だけで言ったけど。

 

 「ブラック・ミラー」は全世界で何億人が加入しているのか忘れたが、ともかく巨大資本でウッハウッハ言ってるNETFRIXの独占シリーズなんでメチャクチャ金かかってるし、今どきの最新鋭っぽさをすべて取り入れた“未来ガジェット”がどのエピソードにも関わって来るし、それでいて「ブラック」の名に恥じないドチャクソに後味の悪い話が8割なんで最高なんですよね…。最後に正義は勝つみたいなディーン・R・クーンツ的ホラーより、全ては最悪の最悪で終わるジョン・ソール的ホラーを味わいたい日ってあるやん…? ネタバレにならない程度に「胸糞8割・感動2割」くらいの本シリーズ全23話(うち特別編1話)を紹介しまんた。

 

 

【シーズン1】

■国歌 The National Anthem(シーズン1-1・44分)★★★★

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引用:Black Mirror: The National Anthem  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 英国のスザンナ妃が誘拐された。犯人からの要求は16時までに首相が豚とセックスしている映像を全国に向けて放送すること。当然そんな要求は飲めないので「獣姦AV男優の顔を首相と合成する」「犯人の居場所を逆探知し特殊部隊を送り込む」等、あの手この手を尽くす首相だったがすべて空振り、激怒した犯人から切断されたスザンナ妃の指が届けられたことで、同情的だった世論も一変。テロに屈してでもスザンナ妃の命を救わざるを得なくなる流れになってしまう。果たして首相は本当に豚とセックスするのか。そしてその恥ずかしい映像は世界中に流れてしまうのか。この極限状態の中でちゃんとイクことができるのだろうか。

【Review】

 記念すべき第1話にして異色作。近未来的なガジェットは登場しないものの、ある意味史上最悪のテロに巻き込まれた首相とその周囲、そして市井の人々の反応がリアルであっという間に引き込まれる。「せめて放送直前に不快な音波を流しますので!」とか。「ウェー…」とか言って目を背けながらも画面から目が離せない人々とか。このバカげたドタバタ事件の顛末が、こんなラストを迎えるなどと誰が想像出来ようか。

 


■1500万メリット Fifteen Million Merits(シーズン1-2・61分)★★★★★

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引用:Black Mirror: Fifteen Million Merits  Official Trailer (Netflix)

【あらすじ】

 管理化された社会。屋内で単純労働に勤しむ人々に自由はなく、「メリット」と呼ばれる仮想通貨ポイントでアバターを着飾るしか楽しみが無い。この生活から抜け出すにはオーディション番組「ホットショット」で合格し、成功者になるしかなかった。

 兄から遺産を受け継いだ労働者の青年・ビングは、美しい歌声を持つ女性・アビと出会う。「偽りのこの世界では、彼女の歌声こそが本物だ」と感じたビングは、「ホットショット」のエントリー代としてなけなしの1500万メリットをアビに手渡す。心からの感謝を述べるアビ。
 オーディション当日、アビの歌声は視聴者の心を震わせた。舞台横でその様を見つめながら感動にむせび泣くビングだったが、審査員の反応は「素晴らしい歌声だが、それ以上に君は雰囲気がエロいから歌ではなくエロ番組に出演してみては?」という下世話なものだった。観客たちは大興奮、「そうだ! 脱げ!」「脱ーげ! 脱ーげ!」とコールが始まる。

 ビングの中で何かが弾けた。そして…。

【Review】

 空虚な仕事、しょうもない報酬、上辺だけの娯楽…あまりにもわかりやすく戯画化された近未来社会の描写が愉快かつ心冷える。衆愚、体制、社会といった強大な敵に勝ち目のない戦いを挑んだビングが掴んだのは栄光の勝利か、それとも苦い敗北だったのか。観賞後にすべてが嫌になって布団被って寝てしまいたくなる傑作。

 


■人生の軌跡のすべて The Entire History of You(シーズン1-3・48分)★★★

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引用:Black Mirror: The Entire History of You  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 体に埋め込んだチップに、「過去に見た映像」がすべて記録されるようになった未来。人々は自分の記憶映像をビデオのようにいつでも見返したり、他人とシェアできるようになっていた。
 少々神経質な男・リアムは友人らに招かれたパーティで、妻のフィオンが垣間見せた態度が気になっていた。おれが来た時に、彼女から一瞬笑顔が消えなかったか? ジョナスとかいう男に好意的な視線を送っていなかったか? 映像記録をもとにフィオンを問い詰めたところ、ジョナスが妻の元カレだったことがわかった。あんなチャラチャラした、下品な男と妻が付き合っていた…? 過去の映像を繰り返し眺め、妻の反応をつぶさに再度観察するうち、リアムの内にドス黒い感情が渦巻いていく。心中に生まれたある疑問を打ち払うべく、ジョナスの元へ1人向かうリアム。そこで彼が目にしたのは…。

【Review】

 「都合の悪いことは忘れよ!」記憶力の欠如って美徳だよネという思いにさせてくれる一編。こんな未来が実際に訪れたら、この主人公だけでなく世界中のあちこちで似たような事例が起きていそうなものだが…。最新鋭の超テクノロジーがしみったれた家庭紛争の原因になってしまう夢の無いお話ですが、ラスト30秒のハンパない寂寥感がズシンと来る。

 

【シーズン2】


■ずっと側にいて Be Right Back(シーズン2-1・48分)★★★★

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引用:Black Mirror: Be Right Back  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 事故で最愛の恋人・アッシュを失ったマーサ。悲しみに暮れる彼女は、ネット上に残された痕跡を基にして、故人を蘇らせるサービスに登録する。

 アッシュと同じパターンで思考するAIとのテキストチャットに心慰められるマーサ。サービスはさらに精度を増し、電話を介しての会話も可能になる。さらなる“サービス”を求めるマーサの元に届いたのは、アンドロイドとして蘇ったアッシュ。生前の彼と変わらぬ肉体、変わらぬ声、変わらぬ思考、変わらぬ行動パターンを取るアッシュを前にマーサは感動するが、ほどなくして「しょせんAIはAIに過ぎない」ことが露呈してしまい…。

【Review】

 こういう感じの「故人蘇らせサービス」は、わりと遠くないうちに実現しそうな気もする。材料に困らないよう、我々も思想だの画像だの声だのといった痕跡をできるだけネット上に残しておかなければなりませんね。ブログに自撮りや仲間との飲み会写真を載っけたり、社会問題や政治に関してのスタンスを表明しておいたり、クソみたいな「歌ってみた」動画をのそこかしこでバンバンあげとくのも無駄にならないかもしれません。
 夢のような未来技術とそれに伴う問題の数々を同時に描く、すっきりしないラストも含めてSFらしい一作。『ブラック・ミラー』で何度も形を変えて描かれる「AIの人権」について最初に踏み込んだ作品でもある。


■シロクマ  White Bear(シーズン2-2・42分)★★★★

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引用:Black Mirror: White Bear  Official Trailer  (Netflix)

 【あらすじ】

 とある一室で目を覚ましたビクトリア。彼女には一切の記憶が無かった。手がかりは自分の娘らしき女の子の写真、周囲のあちこちで見かける奇妙なマーク、「シロクマ」という単語、それらから想起される不穏なイメージのみ。
 建物を出たビクトリアは、街の人々がスマホを片手に自分を撮影していることを知る。ここはどこなのか、何をしているのか問いかけても彼らはいっさい答えず、にやにやしながら彼女を撮影し続けるばかり。そして奇妙なマークが記されたマスクの男が現れ、銃を片手にビクトリアを追い始める。
 命からがら逃げおおせたビクトリアは、同じく追われる境遇にある女性と出会う。彼女によれば、ある日人々は脳に送られる「シグナル」の影響で思考力を奪われてしまったのだという。一部の人間はその影響を受けにくいのだが、そうした人々を狩る「ハンター」が登場し、シグナル影響下にない人間を殺して回っているのだという。やつらの元から脱出するには、この周囲にシグナルを発信しているホワイトベア放送局を襲撃し、破壊するしかないらしい。
 決死の覚悟でホワイトベア放送局へと向かうビクトリアたち。だがビクトリアの脳裏には、不穏なイメージ映像が再三繰り返されていた。

【Review】

 「なんにでもスマホカメラを向けたがる人々」を傍から見たとき、あるいは実際カメラを向けられたときに感じる彼らのブキミさを分かりやすく揶揄した作品。…と思いきや、もう一段階レイヤーの深い社会病理に踏み込んでいることがラストで判明する。「それ」の恐ろしさは『ブラック・ミラー』では何度も取り上げられており、シリーズ共通のテーマなのかもしれない。アクションアドベンチャー風味の展開が終盤でガラっと様変わりするのも見事。個人的には本作みたいな見世物はまったく見たいと思わないが(わざわざ現場まで行きたいか? コレ)、こういうのがもてはやされていること自体が暗黒の未来っぽくもある。


■時のクマ、ウォルドー The Waldo Moment(シーズン2-3・43分)★★★★

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引用:Black Mirror: The Waldo Moment Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 バラエティ番組で人気の青いクマ・ウォルドーは、有名人にも容赦なく過激で下品な言動で突っかかっていく芸風で人気のアニメキャラ。そんなウォルドーの次のターゲットは、保守党のモンロー議員。モンローを徹底的にからかい、いじり倒し、選挙活動中の彼の元へわざわざ街頭トラックで駆けつけて挑発するなど、あらゆる手段でこき下ろしていた。
 一方でウォルドーの「中の人」、ジェイミーは苦悩していた。ただただ下品で、ポリシーも無く著名人に噛み付くだけのウォルドーにはジェイミー自身も辟易していたが、いざ本番となると完全にウォルドーになりきってしまう自分にも嫌気が差していた。そんな中、テレビ局は「モンローの選挙にウォルドーを出馬させよう!」とさらに過激なキャンペーンを打ち出す。当然反対するジェイミーだが「ウォルドーは君だけのものではない」とプロデューサーからわりとまっとうに反論され、政治出馬は決定的なものに。
 そして、モンローとウォルドーの公開対談。モンローからは「キミはアニメの後ろに隠れているだけの卑怯者」とののしられた挙句、自分の本名や過去の(ぱっとしない)俳優歴などをバラされてしまいジェイミーは激怒、政治に対しての本心からの思いをモンローに対してぶつけまくる。この対談はネット上でも大いに話題を呼び、ウォルドー人気はさらに上がってしまう…。

【Review】
 本作から感じられる危惧感は世界共通のものなのだろう。大衆の代弁者、強者へのカウンターとして人気を博していたウォルドーが、いつしか体制側に取り込まれていく過程が「いかにも」な感じで寒々しい気分にさせてくれる。ウォルドーは人々が思う以上に圧倒的な強者なんだけど、それを演じるジェイミーはどこまでも弱く等身大だ。

 


■ホワイト・クリスマス White Christmas(シーズン2-4・73分)★★★★★

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引用:Black Mirror: White Christmas  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 雪が降るクリスマス。とある山小屋で2人の男性が語る、3つの物語からなるオムニバス。
 1話目。視覚を他人と共有できるデバイス「Zアイ」を利用して、リアルタイムでアドバイスする恋愛コンサルタントの話。ベッドイン後の映像も含め、Zアイで会員たち全員で見て楽しむというゲスさ満載の仕事だったが、そんな彼らが共有することになった悪夢の一夜とは…。
 2話目。人間の人格を外部デバイスにコピーできるようになった時代。以前の記憶を引き継ぎつつも、肉体を持たないコピー人格はかなりの混乱と恐怖を感じる。そんなコピー人格専門のカウンセラーを職業とする男がいた。その仕事の実態とは…。
 3話目。一般的に普及しているZアイにはブロック機能も搭載されていた。別れた妻にブロックされてしまったとある男は、彼女のみならず自分の娘の姿さえも見られなくなってしまう。元妻が不慮の事故で死亡した後、ようやくブロックが解除された彼は娘に会いに行くが…。

【Review】

 一見、無関係にも思える3つのエピソードがラストで収束。白き聖夜を黒く染める陰鬱なスペシャル回。
 これまでのエピソードと比べ、特にSFホラーっぽさが強く感じられる。突如遭遇する狂気(第1話)、無限の無間に落とされる絶望感(第2話)、断絶“される側”の苦悩(第3話)などなど…。いずれのエピソードでも、平穏な日常を送っていたはずの人々の生活が一転、ブラックな世界に放り込まれる。観賞後は「うまいこと伏線回収しましたな~!」という感心と同時に、救いの無さ過ぎる展開に心冷える思い。

 

【シーズン3】


■ランク社会 Nosedive(シーズン3-1・63分)★★★★★

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引用:Black Mirror: Nosedive  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 SNSがさらに一般的になった社会。例え初対面の相手でも「評価」できるようになったため、この社会では「いいね!」評価がすべてだった。一定ランク以上の「いいね!」が無い人間は出世も出来ず、高級住宅にも住めず、飛行機にすら乗れないのだ。
 いまいちランクが伸び悩んでいるレイシー。「いいね!」専門のアドバイザーに助言を受けたり、アルファな同僚に媚びを売ったりと自分なりに努力はしているものの、成果は芳しくない。そんな彼女に訪れた一世一代のチャンスが、上流階級な面々が集まる結婚式での友人代表スピーチ。これで泣けるエピソードをでっちあげれば★もガッポガッポやでぇ! と張り切るレイシーだが、式場に向かう道中でささいなミスから低評価を押されまくり、ランクがどんどん下がっていってしまう。この評価じゃ交通機関を使うこともできない! どうすりゃいいの~!?

【Review】

 シリーズ中もっともギャグに振り切れた作品。「いいね!」欲しさに傍から見れば奇行でしかないアレコレに取っ組み、努力してるにも関わらずパッとしないままアルファ連中に小馬鹿にされるレイシー。涙と笑いを禁じ得ないとはこのこと。
 「SNSはクソ! もっと、なんかこう…‟人と人との生身のお付き合い”のほうが大切なんじゃない!?」という主張は今更な気もするが、実際にSNSはクソクソのカスゴミのゲボなんで仕方ないですよね。最後はまあバッドエンドなのだが、ある意味痛快でもあり、一筋の希望も感じさせる。


■拡張現実ゲーム Playtest(シーズン3-2・57分)★★★

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引用:Black Mirror: Playtest  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 家を飛び出し、世界中をヒッチハイクでフラフラしていたクーパー君だったが、ロンドンでついに金が尽きてしまう。現地でひっかけたゲーム好きの女性・ソーニャの勧めもあって、新進気鋭のゲームクリエイター・サイトウが手がける新作ゲームのテストプレイヤーをすることに。ついでにソーニャからは「こっそり新作の写真を撮ってきてよ! ただのテストプレイより儲かるから」と頼まれる。
 バイト当日、クーパーがテストプレイすることになったのは最新型の現実拡張ゲーム。脊髄に小さなユニットを埋め込むことで、ゲーム内のキャラクターが実際にその場にいるかのように視覚・聴覚で感じられるものだった。職員の目を盗んで、こっそりスマホでゲームデバイスを撮影するクーパーだったが、その姿は監視カメラに捉えられていた。
 いくつかのデモンストレーションのあと、クーパーはサイトウと面会し、この技術を応用したホラーゲームのテストをしてくれないかと依頼される。現実拡張デバイスに加え、使用者の過去の記憶を読み取ることで、もっとも恐ろしい体験ができるのだという。依頼を引き受けたクーパーは古びた洋館に連れて行かれ、ギブアップするまでそこで過ごすことになる。そして…。

【Review】

 『ブラック・ミラー』にしては珍しい直球ホラー演出が楽しい1作。話の展開は少々強引でオチも無理やりなのだが、クーパーの感じる恐怖の源流にある体験が非常にリアル。作中に何度も出てくる「母」の不穏さと来たら! 余談だが、ソーニャの家に並んでいるゲームソフトがなかなか通なラインナップだった。

 


■秘密 Shut Up and Dance(シーズン3-3・52分)★★★★★

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引用:Black Mirror: Shut Up and Dance Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 PCがウイルスに感染していることに気づかず、うっかりシコってしまったケニー君は、「ウェブカメラで今の恥ずかしい姿を録画させてもらった、バラされたくなければ指示に従え」というメールが届いて大慌て。「時間内にこの場所まで行け」「メッセンジャーから荷物を受け取れ」「荷物をホテルの○○号室まで届けろ」と、指示のままにあれこれ働かされることになる。だが、その内容はどんどんエスカレートしていき…。

【Review】

 筋立て自体はシンプルで、なんなら似たような話がすでにあってもおかしくないくらいだが、込められた悪意の量と質がハンパない。作中ではケニーのほかにも多くの人々が「黙って踊ら」されていることが分かる。謎のメールの送り主の正体とその目的については一切語られないのだが、視聴者には容易に想像できる。まさに吐き気を催されるほどのアレ。死よりもなお悪い最悪。ウェブカメラハッキングは普通にありえる事例なので気を付けましょう。

 


■サン・ジュニペロ San Junipero(シーズン3-4・61分)★★★★★★

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引用:Black Mirror: San Junipero  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 1987年のサン・ジュニペロ。青い海が広がるこのリゾート地で、地味なメガネっ娘・ヨーキーはナウいイケイケギャルのケリーと出会う。ケリーからレズセックスを持ちかけられるヨーキーだが、婚約者がいることを話し、その場は別れることにした。
 1週間後、サン・ジュニペロの街。目いっぱいのおしゃれをしてディスコを訪れたヨーキーは再びケリーと出会う。彼女の家でレズセックス後、お互いの境遇を語り合い、ケリーにはかつて夫がいたことを知るのだった。
 数週間後、1996年のサン・ジュニペロ。あの日以降、ケリーは姿をくらましてしまう。思い出のディスコや、危険な雰囲気漂う退廃的なクラブなど、ケリーのいそうな場所を渡り歩くヨーキーだったが、足取りはつかめなかった。
 1週間後、2002年のサン・ジュニペロ。ようやくケリーと出会えたヨーキーは彼女の不義理をなじるものの、「借りなんて無い」とつれない程度を取られる。だがその後、お互いの素直な気持ちを語り合い、この街を出て本当の姿で出会う約束をするのだった。

【Review】

 むせかえる濃厚百合。サン・ジュニペロの街に隠された秘密については中盤で明らかになるのだが、話の本筋はそこには無い。偽りの世界の、偽りの姿で真実を掴んだ2人の物語。サン・ジュニペロの海、とあるシーンではそのシチュエーションも相まって、まさに別世界の如き美しさを見せてくれる。その後の胸が痛む一幕も含め、とにかく感情を左右に揺さぶられる一品。SF史に残る傑作。

 


■虫けら掃討作戦 Men Against Fire(シーズン3-5・60分)★★★

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引用:Black Mirror: Men Against Fire  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 人間と同等の姿と知能を持ちつつも、凶暴にて醜悪なる敵対存在、その名も「虫けら」たちが跋扈する近未来。虫けら掃討部隊に志願した新兵、ストライプは初戦でみごと虫けら2匹をブチ殺したが、とある機械の光を浴びたことで心身に変調をきたす。憎むべき虫けらどもが「人間」と変わりない姿に見えてしまうのだ…。

【Review】

  ここまで素直というかストレートというか、オチが完全に予想できる話も「ブラック・ミラー」では逆に珍しい。とは言え決してチープな出来ではなく、バッドエンドとも言い切れないラストの1カットには単なるやるせなさ以外の感情がいろいろと渦巻く。本作は意外な展開や衝撃の事実に驚くような話ではなく、作り込まれた世界観と、ガジェットを駆使した「虫けら掃討戦」のディテールを楽しむ回だと思う。


■殺意の追跡 Hated in the Nation(シーズン3-6・89分)★★★★

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引用:Black Mirror: Hated in the Nation  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 有名人・著名人の殺人事件が多発。明らかに他殺なのだが、その凶器や手口は不明のまま。事件を調査するカリン警部は、犠牲者たちが「アイツ死ねばいいのに」とネット上でヘイトを買い続けていたことを突き止める。果たして事件の首謀者は? 凶器の正体は? そして犯行の動機とは…?

【Review】

  推理モノの色濃いエピソードなので、あらすじは少々簡潔に済ませる。ネットでは「あいつ死なねえかな~!」以外の感想を抱かせてくれないようなドブゲロのアホバカが何匹もいるが、そいつらを本当にぶっ殺せる力を得たらあなたどうしますか。ネットでしか接点の無い見知らぬ他人、場合によってはこちらの存在すら認識していない相手。そんな連中に対して殺意を抱くハードルは、とてつもなく低いのではないかという、わりと痛いところというかネット社会ならではの病理を突いてくる。腹立たしいボケナスはブロックするのがいちばん!

 

【シーズン4】


■宇宙船カリスター号 USS Callister(シーズン4-1・76分)★★★★

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引用:Black Mirror: USS Callister  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 宇宙が舞台の超人気オンラインゲーム「インフィニティ」運営会社のCTO、デイリーはうだつの上がらない日々を過ごしていた。かつては天才的なゲーム開発者であった彼だが現在はただのお飾りでしかなく、社員たちにもナメられっぱなし。
 そんな彼の憂さ晴らしは、インフィニティの世界で密かに作り上げた「カリスター号」で過ごす毎日。強くて賢くてモテモテの超スゴい船長のロバート・デイリーとそのクルー達が、銀河を駆ける超スゴい宇宙船・カリスター号で宇宙の平和のために大活躍! 自分以外のクルーや悪役といった登場人物たちは、ムカつく社員のDNAをこっそり採取しクローン人格として再生したもの。クローン元の人物とまったく同じ記憶、本人と変わらない人格を持つ彼らを相手に、デイリーはあらゆる欲求と欲望を果たすことができるのだ。
 現実での生活に不満が溜まるほど、ゲーム内のデイリーの行動はエスカレートしていく。もはや暴君でしかないデイリー船長に対し、カリスター号のクルーたちは反逆を試みるが…。

【Review】

  記憶・人格のコピーによって生まれたデジタルクローンは『ブラック・ミラー』ではわりとよく出てくるガジェットだが、「ホワイト・クリスマス」然り「ブラック・ミュージアム」然り、彼らの多くは永遠の不自由と絶望に囚われている。だからこそ、そんなデジタルクローンたちが現実に反旗を翻す本作は非常に痛快かつ爽快。
 最初の印象では「冴えないかわいそうなオタク」でしかなかったデイリーが、話が進むにしたがって悪魔のごとき暴虐な神へと化していく過程には少々つらいものもある。ただ真面目な話、未来ではクローンにも人権は認められるだろうし、弱者をいたぶる弱者という構造を抜きにしても彼は裁かれるべき人間だったのだろう。


■アークエンジェル Arkangel(シーズン4-2・52分)★★★★

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引用:Black Mirror: Arkangel  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 一人娘のサラのことが心配で心配でたまらない母親・マリーは、娘の動向をすべてチェックできる新サービス「アークエンジェル」に加入する。埋め込んだチップを介してサラの居場所を常に把握できるし、彼女が見ているモノをタブレットですべて確認できる。しかも、娘にストレスを感じさせるような怖いモノ、痛いモノ、醜悪なモノは「ブロック」することで、娘の視界に入らないようにすることまでできてしまうのだ。アークエンジェルのおかげで心の平穏を取り戻したマリーだが、マリーの父親が発作を起こして倒れる。苦しむ姿を見たサラはストレスを感じ、倒れた祖父の姿はブロックされてしまう。
 アークエンジェルの歪さを知ったマリーはタブレットを破棄し、サラもすくすくと育っていった。とは言え年頃の娘、親の言いつけを守らずに帰りが遅くなることもある。心配のあまりアークエンジェルを再起動するマリー。すると、そこにはあられもない姿の男の裸体が映し出されて…。

【Review】

  監督は女優のジョディ・フォスター。親のエゴイズムが子供を歪めてしまいかねないという、わかりやすい教訓たっぷりのお話…とはいえ、本作のマリーの行動を真正面から咎め立てできる親はそういないのではないか。だってそうやん…。一人娘がハロウィンで軽トラひっくり返しそうなウェイ系と付き合ってたら一言二言はモノ申したくなるのは普通やん…。
 説教オブ説教のために作られたガジェット感が漂うものの、さりげない描写の巧みさにうならされる一品。物語上は脇役でしかないマリーの父親の存在感や、サラが成長してくカメラワークには感心する。バッドエンドでありながら前向きで解放感のあるラストは「ランク社会」に通じるものもある。


■クロコダイル Crocodile(シーズン4-3・59分)★★★

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引用:Black Mirror: Crocodile Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 名のある建築家として成功したミアだが、彼女には誰にも言えない殺人の秘密があった。ミアが偶然目撃した事故を調査するため、保険会社の調査員が彼女のもとを訪れる。過去の視覚映像を再現する「リコーラー」によって殺人が発覚することを恐れたミアは調査員も殺害してしまう…。

【Review】

  視覚情報を記録できるという、「ブラック・ミラー」ではおなじみ…というか、少々手アカが付きすぎた感のある装置がメインのガジェットに据えられている「またかよ」感と、いくらなんでも救いが無さ過ぎるうえに強引な感じが拭えないラストのせいか、いまいち絶賛しにくい一作。ラストの雰囲気は実にイイんだが、ここにポイント注ぎ過ぎな気もする。全体に漂う徹底した寒々しさは本当に素晴らしい。


■HANG THE DJ Hang the DJ(シーズン4-4・51分)★★★★★

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引用:Black Mirror: Hang the DJ Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 男女交際のすべてがシステムによって管理されている世界。交際相手も交際期間もすべてシステムによって定められ、数々のデータを集計したのちに理想のパートナーが決められる仕組みだ。違反した者は「壁」の外に追放されるという、厳しい掟でもある。
 システムによって出会ったフランクとエイミーは、初対面の時からお互いに惹かれるを感じていた。しかしシステムから提示された交際期間はたったの36時間。名残惜しさを感じつつも2人は別れ、システムに命じられるまま別の相手との交際を始める。しかし明らかに相性の合わない女と1年間交際することになったフランク、幾多の男と出会いつつも物足りなさを感じていたエイミーは、お互いのことを忘れられずにいた。
 偶然なのか必然なのか、フランクとエイミーは再びシステムによって再会する。あえて残された交際期間を確認しないことを誓い、至福の時間を過ごす2人だったが…。

【Review】

  常にユーモアと相手への気遣いを忘れず、人当たりのいいフランクとエイミーが好意的に描かれているぶん、ディストピアにしか思えない恋人指名システム、「壁に覆われた世界」というお決まりのガジェットの不穏さは相当なもの。この流れでこのラストに落ち着き、観賞後にこんな気持ちになるというのは見事としかいいようがない。

 


■メタルヘッド Metalhead(シーズン4-5・41分)★★★

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引用:Black Mirror: Metalhead  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 おそらくは文明崩壊後の世界。ベラ、クラーク、アンソニーの3人は「とある物資」を求めて倉庫に侵入するが、自立型の殺人マシン・「ドッグ」の襲撃を受ける。クラークとアンソニーは頭を吹き飛ばされて即死、ベラは命からがら逃げ出すが、地獄の猟犬はどこまでも彼女を追い詰め…。

【Review】

  ストーリーの妙ではなく、シチュエーションとビジュアルで魅せる回なので、賛否両論になるのもわかる気はする。全編モノクロでBGMは最小限というスタイリッシュが過ぎる映像、モノクロなのをいいことにけっこう過激な肉体破損描写、まったく説明されない世界観…。要は「倉庫に潜入して●●を取ってこい」という『フォールアウト』のクエストみたいな単純なお話ながら、妙に視聴者に要求するハードルが高い問題作。狂ったアイボというか殺人メカゴキブリというか、とにかく絶妙な造形のドッグ=メタルヘッドの不気味さとカッコよさが印象的。5、6体くらい買ってオンラインサロンのオフ会やってる会場に放り込みたい。

 


■ブラック・ミュージアム Black Museum(シーズン4-6・69分)★★★★

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引用:Black Mirror: Black Museum Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 ニッシュが立ち寄った「ブラック・ミュージアム」には、さまざまな犯罪に関する展示物が陳列されていた。館長のロロ・ヘインズと名乗る男性は、展示物にまつわる3つの奇妙なエピソードに語る。
 患者の痛みを共有することで、正確な診断ができるようになった医者の話。事故で植物人間になった妻の意識を、自らの脳に移植した男の話。死後も人格を電子的に再現され、永遠に死の瞬間を見世物にされ続けることになった死刑囚の話。
 自慢の品々を得意げに披露するロロ・ヘインズだが、実は彼こそが人の「意識」を移植する技術の持ち主だった。そして最後のエピソードが語られたあと、彼とニッシュに関わる意外な事実が明らかになる。

【Review】

 「ブラック・ミラー」の様々なエピソードにまつわるイースターエッグも大量に仕込まれた、シリーズの集大成的な作品。「ホワイト・クリスマス」のようなオムニバス構造で、「永遠に続く苦痛」という似たようなテーマのエピソードもあったりする。正直「もう見た」感がなくもないのだが、えげつなさという点では本エピソードのほうが大幅にアップしているし、前述の小ネタの数々も楽しい。

 

【シーズン5】


■ストライキング・ヴァイパーズ Striking Vipers(シーズン5-1・61分)★★★★

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引用:Black Mirror: Striking Vipers  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 ダニーとカールは、かつてシェアハウスで暮らしていた旧知の仲。ダニーが妻子持ちになってからは長らく会っていなかったが、38歳のバースデーで2人は久々に再会。カールは昔いっしょにプレイしていた対戦格闘ゲーム「ストライキング・ヴァイパーズ」の最新作をダニーにプレゼントし、「今度ネット対戦しようぜ!」ということになった。
 「ストライキング・ヴァイパーズX」は最新鋭のVRゲームで、操作キャラクターの五感がプレイヤーにそのまま反映されるという。ダニーは男キャラ、カールは女キャラでプレイしていたが、激しい戦いを重ねているうちにだんだん別の意味で盛り上がってきてしまい、VRセックスをおっ始めた。あまりの気持ちよさにすっかり夢中になってしまった2人は夜な夜な「対戦」を繰り広げていたが、そのおかげで妻や恋人との仲がこじれてきてしまう。
 おれたちはいったい何をやってるんだ? ちょっと過激なバーチャルプレイか? それともただのホモ不倫なのか? お互いに抱いている感情は友情以上の…なんなんだ?

【Review】

  ネット上の付き合いと現実との付き合いは別物とは言われるが、ここまで極端な例はスゴい。こんな奇妙な三角関係、SFでしかお目にかかれないのでは? 実際にこんなリアル過ぎるゲームがあったら、発売1週間も経たずにメンテが入ってなんらかの機能制限が付きそうなものだが(「ジャンプ後の硬直を軽減しました」等に加えて「性的快感を得られないように調整しました」みたいに)、エロ目的に使ってるの彼らしかいなかったんですかね?

 


■待つ男 Smithereens(シーズン5-2・70分)★★★★

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引用:Black Mirror: Smithereens  Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 2018年・ロンドン。タクシー運転手のクリスは、SNSを運営するスミザリン社の社員を誘拐。「社長のビリー・バウアーと話をさせろ!」と突き付ける。そんな要求は簡単には飲めないとするスミザリン社だったが、狙撃も交渉もうまくいかず、状況は硬直。事件を知ったビリー・バウアーは、クリスとの対話を試みるが…。

【Review】

  とある誘拐事件と、それを取り巻く周囲…クリスと人質、警察、狙撃手、交渉人、FBI、スミザリンの幹部、そしてビリーといった人々の行動と対応が非常にていねいに描かれており、実録風犯罪サスペンスとしての見ごたえはじゅうぶん。事件のきっかけになった事故に加え、「警察以上の情報収集能力を見せるSNS運営」「なにげない漏洩がSNSを通じて拡散し、犯人のもとへ届いてしまう」等の“社会の闇”パートはオマケに過ぎない。ストーリー自体はツイッターにアップされる啓蒙4コマみたいなものなのだが、「身の覚え」がある人は多いだろう。「近未来に起きるかもしれない事件」ではなく、「すでにもう何度も起きている事件」について描いた異色作。

 


■アシュリー・トゥー Rachel, Jack and Ashley Too(シーズン5-3・67分)★★★★★

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引用:Black Mirror: Rachel, Jack and Ashley Too Official Trailer  (Netflix)

【あらすじ】

 孤独な少女、レイチェルは今をときめくアーティストのアシュリーに夢中。誕生日にはアシュリーの思考パターンをコピーした小型ロボットフレンド「アシュリー・トゥー」をパパに買ってもらった。姉のジャックは「がんばれば夢は叶う~♪」みたいなアシュリーのカラッポな歌詞を小馬鹿にしていたが、レイチェルのアシュリー熱は冷めることがない。
 一方で、当のアシュリー本人はマネージャーに強要された自らのキャラクターに思い悩み、スランプに陥っていた。言うことを聞かないアシュリーに対しマネージャーはついに強硬手段を決行、アシュリーを薬物で意識不明の状態にし、昏睡中の彼女をホログラムで再生した「アシュリー・エターナル」を新機軸のアイドルをして売り出そうとする
 そんな折、壊れたアシュリー・トゥーをパパの研究室で修理したレイチェルとジャックは、うっかりアシュリー・トゥーの自我を目覚めさせてしまう。「本物のアシュリーだ」と感動するレイチェルに、アシュリー・トゥーは「あのクソマネージャーをやっつけるため協力して!」と叫ぶ。レイチェル、ジャック、アシュリー・トゥー、3人娘によるアシュリー奪還作戦の始まりだ!

【Review】
 漫画チックなキャラクター、涙あり笑いありアクションありの特濃展開、さわやかな後味など、エンターテイメントとしての完成度はすばらしく、藤子不二雄的なジュブナイルの世界に存分に浸ることができる。「面白いっちゃあ面白いけど『ブラック・ミラー』ってこんなんだっけ?」という違和感も大きく、シリーズの転換期を感じさせる1品。

 

【特別編】

 

■ブラック・ミラー: バンダースナッチ Black Mirror: Bandersnatch(90分)★★★★

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引用:Black Mirror: Bandersnatch Official Trailer  (Netflix)

 【あらすじ】

 1984年。若きプログラマーのステファンは、ファンタジー小説、『バンダースナッチ』を原作にしたアドベンチャーゲームを制作していた。『バンダースナッチ』は読者が展開を選べるというゲームブックのような仕掛けがあり、アドベンチャーとの相性はぴったり。デモ版が完成し、尊敬するクリエイターのコリンが所属するプロダクション、タッカー社に持ち込んでみたところ好評価を得ることができた。完成すれば社を挙げて大々的に売り出してくれるという。
 大きなチャンスを得たステファンは根を詰めてゲーム制作に取り掛かるが、バグが頻出したりコンピューターにお茶をかけたりしていたのでなかなか完成までたどり着かない。ノイローゼ気味のステファンは「自分の行動が第三者によって選択されている」という奇妙な感覚を覚えるようになる。

【Review】

 視聴者がステファンの行動を選択肢で選べるという、それこそアドベンチャーゲームのような実験作。朝食にどっちのシリアルを食べるか、コンピューターにお茶をかける・かけないかだのといったものから、人の生死にかかわる重大な選択まで、すべては視聴者の手に委ねられている。
 本作においては「おれが見た展開」と「あなたが見た展開」が異なることが容易に予測できるので、感想を述べづらい。「ループものって怖くね?」とはよく言われるが、作中人物よりも視聴者のほうがその渦中に巻き込まれる不安感を味わうことになるとは…。果てしないループの中で、作中人物がすでに語っていた「残酷な現実」に気づいた時のやるせなさと来たら。
 尖りすぎた所ジョージみたいなコリンを始め、登場人物の個性は抜群。「シロクマ」「メタルヘッド」「サン・ジュニペロ」等の楽屋ネタも見どころで、スペシャルエピソードにふさわしい物語とギミック。

 

 

 

 以上です。

 ホント出来の差こそ多少はあるけど、それぞれに違った味わいとアイデアが詰まっているので全話観てほしい。あえてオススメを選ぶなら、エンターテインメント重視で面白い話が観たいなら「サン・ジュニペロ」「アシュリー・トゥー」「ランク社会」の3本。胸クソゲロゲロ展開が好きなら「国歌」「秘密」「ホワイト・クリスマス」辺り。ちなみに海外の評価サイト、インターネット・ムービー・データベース(IMDb)で高評価だったエピソードベスト4は「ホワイト・クリスマス」(★9.2)、「HANG THE DJ」(★8.8)、「サン・ジュニペロ」「ブラック・ミュージアム」(★8.7)でした。まあ1日1作見ればネトフリの初月無料期間でもコンプリートできると思うので、今の世界情勢よりも沈鬱な気分になる未来世界に存分に浸ってほしい。


 あとネトフリ、ホラー系だけでも傑作がいろいろ観られるのが良い。ベタなところでは現在進行形で大人気のSFホラードラマシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』、スティーヴン・キングとその息子のジョー・ヒルが原作の『イン・ザ・トール・グラス -狂気の迷路-』、同じくキング原作の『1922』、韓国製の傑作ゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』、その前日譚の『ソウル・ステーション パンデミック』、1年に1日だけ殺人が合法になる日に起きる事件を描く『パージ』、その3作目『パージ:大統領令』(なぜか2作目は無い)、POVホラーの佳作『グレイヴ・エンカウンターズ』と『グレイヴ・エンカウンターズ2』、全裸のおっさん怪人のビジュアルが普通に怖い『テリファイド』、さらにベタベタなところでは『ヘルレイザー』『キャビン』『フライトナイト』『リトルショップ・オブ・ホラーズ』『ホステル』『ファイナルデッドコースター』『ワールド・ウォーZ』辺りも観られるので観ましょう。観れ。(おわり)

 


 

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 BOOTHで通信販売中のサークル誌「二級河川22 怪奇は踊る」では、上記の『ブラック・ミラー』レビューの他、光原伸のジャンプ漫画『アウターゾーン』評、クライヴ・バーカーの幻想スプラッタホラー短編集『血の本』全話解説、伝説のホラーアンソロジー「異形コレクション」傑作10選といったホラー系レビューに加え、「お好みの怪奇をお届け!ホラー映画ソムリエ対決」「素人が百物語してみたら下ネタ多めだった件」等の不要不急の極みとしか言えない企画を掲載しております。2時間程度のヒマつぶしを保証!

kinyuukai.booth.pm

明らかに許可取ってない有名人パロディ漫画10選

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※初出「二級河川19 ファミコン無頼」 金腐川宴游会 - BOOTH

 

 「モンゴルの英雄たるチンギス・ハンを侮辱している!」として、 2018年3月号のコロコロコミックが回収騒ぎになった事件を覚えておいでだろうか。この問題に対しての小学館の対応はだいぶ腹立たしかったがそれは置いとくとして、「昔はもっとヤバい漫画いっぱいあったよなあ」などと思い出した人も多かったのではないか。

 そういうわけで、クソガキ御用達のブラウン管無法地帯「有名人パロディ漫画」の中から思い出深いもの、面白かったもの、チンギス騒ぎ以降に買い集めたもの、単純にヤバいものをいくつか紹介しよう。基本的に「タイアップ関連ではない」「当時存命の有名人を扱っている」「少年・少女漫画」から選んでおります。青年漫画を含むと野球・政治 4 コマとかもフォローする必要が出てきてキリがないので…。

 

【もくじ】

 

やっぱ!アホーガンよ

■著者:柴山みのる ■全6巻 ■講談社 
■コミックボンボン1984年5月号~1989年10月号

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 初期こそアホーガンやヌタン・ハンセン、九州力といったキャラたちがプロレスパロディを繰り広げていたが、そのうち下品さが急加速。ウンコとチンチンとオッパイが毎回の如く登場し、男子小学生は大歓喜、真面目なプロレスファンは渋い顔の過激漫画と化す。本作はチンチンの描写に置いては一線を画しており、触手の如く自由自在に動くのはもちろん、大量の水や空気を吸い込んだり、物を食べたり、うんばらほ(チンチンで天を指さすギャグ)したりとなんでもアリ。“男の人格はチンチンに宿る”と言わんばかりの活躍ぶり。
 現在ではプレミアが付いており入手難だが、圧倒的なテンポのよさは今読んでも色あせておらず、今回紹介する漫画の中でも群を抜いて面白い。最終回でもそのテンションは下がることなく、バカボンのパパやSDガンダム、温泉ガッパドンバなどのボンボン連載キャラが集合し「ボンボンもこれで上品になる」と喜んでいるところへ(ドンバは人のこと言えないだろ)アホーガンが乱入。「お前らも道連れじゃ!」と“最終回”と書かれた穴へに引きずり込み、ラストは全員で「うんばらほ~」して終わり。いろんな意味で伝説の作品。

おもしろ度  ★★★★★
ソックリ度  ★★
シモネタ度  ★★★★★
総合危険度  ★★★★★

 

 

わ~お!ケンちゃん

■著者:竹村よしひこ ■全6巻 ■小学館
■コロコロコミック1991年3月号~1994年11月号

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 アホ小学生の“志村ケン太”ことケンちゃんが、クラスメイトの加藤茶太郎、うっちゃんなんちゃん、タンネルズ、松ちゃん浜ちゃん、ライバルのタゲシ軍団といったメンツといっしょにイタズラやウンコやオナラをする話。担任の先生として“おこりや長介”、屁をこくデブの役で”高木ぶー”が出演している(工事は?)。この手の漫画のお約束として登場人物はみな元ネタをもじった名前(明石家イワシ、ヂャーリー浜など)だが、コロッケとウインクはそのまま。一般名詞だから? お笑い界隈だけでなく、当時のテレビの人気者が怒涛の如く出演しており、ネタの詰め込み方もすごい。 30代なら懐かしさで感涙必至、 20代以下は困惑必至。
 本作終了後にすぐ、とんねるずっぽい人たちが主役の『すくーぷ?! ワイド笑学園』が同作者・同誌で連載開始するが、こちらは単行本未発売。まったく記憶に無いな…。

おもしろ度  ★★★
ソックリ度  ★★★
シモネタ度  ★★★★
総合危険度  ★★

 

あほ拳ジャッキー

■著者:ぜんきよし ■全7巻 ■小学館
■コロコロコミック1983年8月号~1987年3月号

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 あほになればなるほど強くなる「あほ拳」の使い手・ジャッキーが、修行のためになんかいろいろする(ウンコとか)。ジャッキーと師匠のフェイフェイ(『酔拳』の師匠そのまんま)、ライバルのブルース・ソーの3人がメインキャラだが、カンフー映画の人気者をそれしか思いつかなかったのか、わりと最後までずーっとこの3人がメインのまま続く。初期こそ学校が舞台だったりしたものの、終盤は「西部の用心棒編」「アホゾンの地底人編」などパロディ番外編が延々繰り返されていた。キャラの体型はどことなく『Dr. スランプ』チックで、同じく鳥山明フォロワーの『超人キンタマン』との合作『あほ拳キンタマン』も存在している。
 今回紹介した中では地味に入手難度が高い。作者のぜんきよしは「小学五年生」誌で『やっぱり?! クワタくん』という、どこかで聞いたようなタイトルのプロ野球パロディ漫画も連載している。このクワタは顔のホクロを自由に動かすことができ、内心で考えていることが度々ホクロ文字になって浮かび上がってしまう…というギャグだけは面白かった。

おもしろ度  ★★
ソックリ度  ★
シモネタ度  ★★★★
総合危険度  ★★★

 

ガバチョン笑劇場

■著者:二宮博彦 ■単行本未発売 ■講談社
■コミックボンボン1987年7月号~1988年6月号

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 明石家タンマ(関西弁の出っ歯)と片岡ズル太郎(まだヨガに傾倒していない頃)、秘書のユキ(苗字不明。お色気枠)の3馬鹿トリオ・ガバチョン商事の面々が、金儲けのために東奔西走。下品で時おりエッチな騒動を巻き起こす。
 「テレビの人気者大集合!」とかいうアオリ通り、ライバル会社の珍村ケーンとカット茶をはじめ確かに有名人に似た連中はよく出てくる。ただホントに顔が似ているだけで、テレビでおなじみのネタをやってくれたりはしないのが少々寂しい。脳に斧が刺さった珍村ケーンがクルクルパーになったり、人気アイドルグループ・光GENKIがブサイクになったり、脈絡なくオッパイが出てきたりと内容自体はわりと攻めてるのだが、単行本未発売のためか知名度は低い。最終回は人食い土人の島に行く話であり、今後も復刻の可能性は低そう。
 作者の二宮博彦はあまり単行本に恵まれない人だが、プレイコミック(秋田書店)で長期連載するなど近年でも活躍中。作者のサイト「彦ぷんの24時間営業中」の著作紹介ページに『ガバチョン笑劇場』の文字は無かったが…。

おもしろ度  ★★★
ソックリ度  ★★
シモネタ度  ★★★★
総合危険度  ★★

 

ぶっとび!リエちゃん

■著者:じょうさゆり ■既刊1巻 ■小学館
■小学四年生ほか 1993年?

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 さっきからウンチやチンチンの話ばかりで、有名人パロディ漫画は男子小学生向けのものしかないのかと思われそうだが、ちゃんと女の子向けの作品も存在します。『ぶっとび!リエちゃん』は4コマがメインで、連載当時は本当に大人気だった宮沢りえ(っぽい人)を筆頭に、タレント・アイドル・歌手・俳優・スポーツ選手・お笑い芸人・直木賞作家・老齢の双子姉妹と、登場する顔ぶれのバラエティ豊かさはぶっちぎり。じょうさゆりの似顔絵は普通に可愛らしいが、ネタ方面は貴花田との破局やヌード写真集、りえママの怪物っぷりをいじっていたりと容赦ない。「芸能界おさわがせ4コマ」の名は伊達じゃない。
 貴花田スキャンダル以降の宮沢りえがネタにしづらくなってしまったのも影響したのか、本作の2巻以降は出ていない。じょうさゆりは『芸能ワンダーランド アイドル1番』を引き続き小学館の学習雑誌で連載しており、こちらは全3巻まで続いている。1巻だけで軽く100人以上の有名人パロキャラが登場している大盤振る舞いっぷりはさすがの一言。懐かしく読ませてもらいました。

おもしろ度  ★★★
ソックリ度  ★★★★
シモネタ度  ★
総合危険度  ★

 

かっとばせ!キヨハラくん

■著者:河合じゅんじ ■全15巻 ■小学館
■コロコロコミック1987年6月号~1994年4月号

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 プロ野球パロディ漫画としてはトップクラスの知名度ではなかろうか。野球を知らない人にもクワタ(がめつくて卑劣)ノムさん(しつこくて卑劣)のキャラクターを広めた功績は大きい。『やったぜ!クワタくん』『ゴーゴー!ゴジラッ!!マツイくん』など続編もいろいろあるが、基本クワタが最終的に痛い目に会うオチが多い印象。マツイ登場後はノムさんもロクな目に会わない。
 マツイ移籍後に連載開始した『モリモリッ!ばんちょー!!キヨハラくん』(2003年)では、キヨハラの顔がかなり違っている。まあデビュー当時とずいぶん雰囲気変わってたしね(よく見るとタラコ唇になりギザ歯になっただけなのだが)。あまりに人相が悪かったせいか、「コロコロアニキ」で復活したキヨハラくんは『かっとばせ!』時代の顔に戻っていた。その後キヨがやらかしたせいでいろいろあったのだが、長くなるしおれは全巻持ってないので誰か『キヨハラくん』『クワタくん』『マツイくん』徹底研究みたいな記事書いてください。読みたい。

おもしろ度  ★★★★
ソックリ度  ★★★★
シモネタ度  ★
総合危険度  ★

 

やったね!ラモズくん

■著者:樫本学ヴ ■全6巻 ■小学館
■コロコロコミック1993年8月号~1998年2月号

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 JリーグならぬSJ(スーパージョーダン)リーグのラモズくんが、アルチンド、かず、キタサワといった面々とともにダジャレを言ったりハゲをいじったりする4コマ。単行本は1ページに4コマが1本掲載されており、縦長サイズの変形版。
 さすがベテランの樫本学ヴ、今回紹介したマンガの中でも抜群に絵がうまい。選手たちのデフォルメ具合も完璧だし、たまに出てくる女の子も可愛い。ネタはサッカーとは特に関係ないものが多いが、樫本学ヴはコロコロで『嵐のJボーイ ぶっとび闘人』という真面目なサッカー漫画を本作と同時連載しており、サッカーを知らないはずはない。キャラネタだけで回せるくらい、当時のJリーガーは濃いメンツが揃っていたということでもある。マツイくんばりの野人と化しているアルチンド(台詞が「ウガー」とかばっかり)や、ハゲネタをさんざんいじられるスキカラ(鋤柄昌宏。選手としてはわりと地味)は連載後期まで登場していた。ちなみにラモズは特に必然性なく同性愛者として描かれている。

おもしろ度  ★★★★
ソックリ度  ★★★★★
シモネタ度  ★★★
総合危険度  ★★

 

小泉家のおやじ

■著者:藤波俊彦 ■既刊1巻 ■小学館
■小学四年生ほか 2002年~?

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 日本の首相・小泉ジュンイチローと、父親が総理大臣であることを知らない小学生の息子・コータロー。なんとか息子に尊敬されたいジュンイチローは、氷川キヨシ風にイメチェンしたり、写真集を出したりとあさっての方向へ努力を繰り返すが、コータローの目からは「わけのわからない奇行に走るおやじ」としか見られないのであった。
 政治家キャラとして、嫌われ者のムネオ(デカい黒人秘書・むるあかの肩に乗って移動している)、ナンパのことしか考えていないぶっしゅ、ムネオと仲の悪いマキコ、ボケが入っている塩じーなどが出てくる。そのうち「自民党」と大書された“改革ロボ”や地球を侵略に来た“ツッパリハイスクールロケンロール星人”、“どくどくゾンビ”などよくわからないキャラが登場。政治風刺とは数万キロ遠い場所で大騒ぎが繰り広げられます。ギャグの脱力ぶりも含め、小泉を救国の英雄としてやりたい放題やらせた麻雀漫画『ムダヅモ無き改革』(大和田秀樹)とは逆ベクトルの作品。作者はこれと同じノリでアベちゃんやポッポやトランプの半生も描き、暇な方々に叩かれたりしていた。

おもしろ度  ★★★
ソックリ度  ★★★★
シモネタ度  ★
総合危険度  ★★★★

 

よ!大統領 トラップくん

■著者:コーヘー ■単行本未発売 ■小学館
■コロコロコミック2017年4月号~2017年12月号

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 画になる…というかネタ的な要素では小泉にも負けず劣らずのトランプ大統領も、もちろん漫画になっております。小泉以上に「どれだけイジってもいい」位置にいると思われるキャラクターだし。本作は小学4年生で大金持ち、態度がクソでかいトラップ君(とても小学生には見えない)が主人公。いろいろ好き勝手したあげくヒドい目にあって顔芸でシメ、というのがだいたいの流れ。トラップだけにラップ要素を交えているのがミソといえばミソで、「小学生はダジャレが好きだからラップも好きだろう」くらいの雑なマーケティングを感じられて最高です。ちなみにアニメにもなっており「フリースタイルダンジョン」でもおなじみのラッパー、UZI(ウヂ)がトラップ君のラップを披露している。コロコロ漫画らしくアニメでもトラップくんはラップに乗せて肛門やチンチンを晒したり屁をこいたりしているのだが、これをYoutubeのコロコロ公式チャンネルで全世界に公開していたのはだいぶ度胸ある。

おもしろ度  ★★★
ソックリ度  ★★★★
シモネタ度  ★★★
総合危険度  ★★★★

 

仮面のりどん

■著者:沢田ユキオ ■単行本未発売 
■掲載誌不明(情報募集中)

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 フジのバラエティ『とんねるずのみなさんのおかげです』の1コーナー、「仮面ノリダー」が基。ハナの穴が大きい変身ヒーロー・仮面のりどんが、ジョッカーならぬチョッカーの皆さんとドタバタバトルを繰り広げる。コント仕立てだった「ノリダー」と、『スーパーマリオくん』でおなじみ・沢田ユキオとの相性は抜群。ギャグ7割、バトル3割のわりかし元ネタに忠実に再現した内容になっていた。敵怪人は「タコ男」など当然オリジナルで、のりどん強化形態の「すーパーのりどん」なども出ていた。(今回は現物を入手できなかったので、当時読んだおれのおぼろげな記憶による記述)
 Wikipediaには「1989年ごろのテレビランド(徳間書店)に連載」という記述もあったが、当時のテレビランド誌を読み返しても確認できなかった。冷静に考えれば東映お膝元の雑誌で堂々と「ノリダー」パロを連載するわけはないよな~という気もする。沢田ユキオがテレビランドの巻末で連載していた「どんちゃんランド」の1989年6月号で、仮面ノリダーのパロディ「仮面ノリドン」をやっていたのと混同されているのかもしれない。この回は“つゆ男”なる怪人が最終的に“ケーキ男”に変身し、「ハッピーバースデーつーゆー」と歌うカオス展開。

おもしろ度  ★★★★
ソックリ度  ★★★★
シモネタ度  ★
総合危険度  ★★

 

まとめ

 特にありません。

 

 

有名人パロ漫画落穂拾い

●『ごっちゃん!若貴ブラザーズ』(柴山みのる/既刊1巻/デラックスボンボン) 

 『アホーガン』の柴山みのる先生、次なる標的は角界だった! アホで下品なお兄ちゃんの“若穴田”と、お兄ちゃんより人気者でわりとアホの“貴穴田”がチンコを振り回したりウンコをしたりします。『アホーガン』とやることがほとんど変わってなかったためか、本当にどっかから怒られたためかどうかは知らないが、単行本は未完結。最終回は「超能力を持った赤ん坊の殺し屋に狙われ、胴体を真っ二つにされるものの普通に身体が生えてきて再生したのでめでたし」というデタラメな内容なので特に読まなくていいです。

diary.midnightmeattrain.com


 

●『バビブベボブボブ!さっぷくん』(重岡秀満/全3巻/コロコロコミック)

 小学生の“さっぷくん”がクラスで大暴れするお話(物理的な暴力で)。あけぼのを始め有名人は多数出演しているのだが、ボブ・サップ公認のタイアップ漫画なので今回のセレクトからは外れた(曙の許可は取ってないと思うが)。

 

●『がぎぐげゴジラくん』(御童カズヒコ/単行本未発売/デラックスボンボン)

 ゴジラ松井は誰が描いても同じ顔になるんだな、ということがよくわかるプロ野球パロディ。読者による「プロ野球選手似顔絵コーナー」が毎回設けられていた。

 

●『ど~んとドラゴン・キッドくん』(松下幸志/全4巻/コミックボンボン)

 兵庫のプロレス団体、闘龍門JAPANとのタイアップ漫画。プロレス小学校「闘龍門」に転校してきた小学生、ドラゴン・キッドくんが主人公のギャグバトル漫画なのだが、チンチンをロープ代わりにしたりリング上でウンコを漏らしたりと『アホーガン』ばりのお下劣殺法が頻出。闘龍門の懐の広さがすごい。

 

●『サウエとラップ ~自由形~』(陸井栄史/既刊1巻/週刊少年チャンピオン)

 サイプレス上野監修の青春ラップ漫画。さえない高校生の佐上(サウエ)と魯良(ロヨシ)が、他校の番長や校長先生相手にラップバトルを繰り広げる。中盤以降は「パン工場のバイトで目の前を流れていくパン」や「同級生でオナニーしようとしたときに目の前に現れた己の男性器を概念化した何か」など、よくわからないものと戦っていた。漫画内のQRコードを読み込むと、作中のラップバトルを有名ラッパーが再現した動画を見られるという無茶苦茶に手間がかかったタイアップをやっている。単行本未完結はもったいなさ過ぎ!

 

 

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 以上です。