ジャッカルの日

漫画・ゲーム・映画・怪奇についてバカが感想と考察を書く

【特集】アイスキング・ナイススウィング【アドベンチャー・タイム】

 『アドベンチャー・タイム』面白ぇ~! 前々から存在は知ってたけど、Amazonプライムで観放題なのをきっかけに視聴しはじめて、すっかりハマってる最中です。東京MXテレビでも平日4時半から再放送してるし、今から見始めるのも全然アリなんじゃないでしょうか。「1話完結」「濃くて飽きない」「キャラかわいい」と、サクっと観られる要素はすべて兼ね備えてる。 Youtubeでもカートゥーン・ネットワークが公式で何話か配信しているので、1話だけとりあえず観てみてほしい。Youtubeで「アドベンチャー・タイム」と検索すると、岡田斗司夫が「『アドベンチャー・タイム』はポスト『おそ松さん』!」「『君の名は』と『けものフレンズ』より面白い『アドベンチャー・タイム』!」という不快な持ち上げ方をしてますが、これは無視していいと思います。

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1話Aパート「恐怖のパジャマパーティ」。プリンセス・バブルガムの作ったゾンビパウダーにより、キャンディ王国にゾンビがあふれてしまった! キャンディ王国の住民たちは驚くと破裂してしまうため、人々に気付かれないようこっそりゾンビを退治しなければいけない。フィン(主人公。人間)とジェイク(フィンの相棒。犬)はどう立ち向かう!? という、どう考えてもハロウィンスペシャル回とかでやるストーリーで1話目でやる内容じゃないと思うんですが、初見の視聴者にも「このアニメはこういうノリなんだな」ということを叩き込んでくれるので問題ないです。


 Youtube公開分では、人気キャラのマーセリン(ヴァンパイアクイーン)が出てくる回も観られますね。首筋の噛まれ後がキュートなベースギター好き、歌好きの1000歳で、フィンたちに意地悪をしかけてうっかり殺しかけたりもするけど、基本的にはいい人。わかりやすいツンデレ。

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 『アドベンチャー・タイム』は2010年から今現在まで続くシリーズで、アッパッパみたいな展開に反して設定等はやたら作り込まれているため、膨大なキャラクターがいるわけなんですが、主人公のフィンたちの宿敵…ばいきんまんやモジョ・ジョジョの立ち位置にいる“アイスキング”はなかなかに味わい深いキャラ。名前通りの外見をした、ヒゲだらけのオッサンです。

 

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 初登場は第3話Aパート「アイスキングの花嫁」。「いずれ自分を好きになって結婚してくれるにちがいない」という根拠不明の信念のもと、各国のプリンセスをさらって牢に閉じ込めているというヤバいジジイとして登場します。まあ「悪役」としては普通だけど、アイスキングの場合はそのコミュ障ぶり、高齢未婚者ぶりが強調して描かれているため、観ていていろいろツラい気持ちになってしまう。いちおうアイス王国の王様というだけあって、強大な魔力と権力を持っているはずなのだが、プリンセスたちに対しては「監禁」することくらいでしかコミュニケーションできない。クッパですら息子がいたり軍団員には慕われたりしていたのに、アイスキングの部下はペンギンだの氷のモンスターだの、会話ができそうにない連中ばかり。そんなわけで主人公のフィンたちからは基本マヌケ扱いされている。


 アイスキングのヤバさがビンビンに感じられるのは、Youtubeでも公開されている30話Aパート「フィオナとケイク」の回。

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 この回はなぜかキャラクターがみな性別転換しているという、いわゆる「公式が病気」な話。フィンは活発でスキッ歯な少女フィオナ、ジェイクは微妙におばちゃんチックな猫のケイクになっている。プリンセス・バブルガムはプリンス・ガムボール、アイスキングはアイスクイーンとして基本的な性格はそのままで登場する。ぶっちゃけ、この回はおなじみのキャラが性別転換していること自体が最大のギャグという出オチ回で、いつものカオスな展開はおとなしめ。フィオナとプリンスがイチャイチャしている絵ヅラは確かに面白いけれど、話をしては物足りないな~…と思っていたら、最後の最後でドンデン返し。
 この「性別反転世界」、実はアイスキングが書いたパロディ、つまり同人小説だったというオチがつく。アイスキングは宿敵のクソガキであるフィンとジェイクを女体化させ、自分の分身であるアイスクイーンを退治させたうえで、「でもアイスキングは大好きー! お嫁さんにして」などと言わせている。いくらなんでも歪み過ぎだろ! 現実の憂さ晴らしを2重3重に叶えちゃってるよ! いやまあ創作の基になるエネルギーってそういうもんかもしれないけど、仮にもアニメのキャラクターであるお前がそこまでガチな現実逃避するなよ! とかまあ、いろんな想いにあふれ出てしまう。

 

 とまあ、アイスキングはマヌケな悪役であると同時に、こちらをドキっとさせるような哀愁に満ちた危険なキャラクターなのだ。先述のヴァンパイアクイーン、マーセリンとは実は本人も記憶していない繋がりがあったり、「アイスキング」となる前は別の人生を歩んでいたことが明らかになったり…。単なるクソアホの色ボケジジイかと思っていた視聴者にカウンターパンチを浴びせてくるエピソードも用意されている。マーセリンとの意外な、そして哀しい関係が明らかになる52話Aパート「君を忘れない」はシリーズ屈指の名編として挙げる人も多いと思われる。

 

 個人的に心かき乱されたのが8話Aパート「人生のお楽しみ!」は、フィンがジェイクにイタズラするために作ったパイ投げロボット、ネプターのお話。フィンはネプターに電力を与えるため、アイスキングの放つ氷の稲妻を利用することを思いつく。みごと作戦は成功、ネプターは完璧なパイ投げロボットになるのだが、アイスキングはネプターを奪おうとする。「ワシの稲妻を受けて覚醒したお前はワシの息子同然! いっしょに暮らそう!」と。
 しかしネプターはフィンと一緒にイタズラ人生を送ることを決め、アイスキングに毒入りのパイをぶっつけて撃退。めでたしめでたし…。エンディング、気絶したままのアイスキングは、ネプターと2人きりで沈みゆく夕日を眺める夢を見ていた。

「パパ、プリンセスたちをつかまえに行く?」
「いや、いいんじゃ。このまま、もう少しこうしていよう」
「ずっと愛しているよ、パパ」

 息子になるはずのネプターにも見放されたアイスキング。一筋の涙を流しながら、理想の夢を見ていたのだった。

 

 いろいろなエピソードで「主役級」とまではいかないが、印象深い活躍を見せてくれるアイスキング。実はアイスキングのことを慕ってくれるキャラは劇中にもそれなりにいるのだが、アイスキング自身はそれに気づいていなかったりもする。アニメの悪役が時折見せてくれる物悲しさ、中年になるとこーいう一面に心動かされてしまうなあという話でした。『アドベンチャー・タイム』、マジでキャラの1人1人が濃ゆい描写されてるから見応えあるぞ! 高カロリーだぞ!

 

【特集】思い出の忘れられないパチソンの元曲を20年越しで発見できた件

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 特にドラマチックな出来事は起きませんが、「大人になって懐かしのアレを探そうとしたら意外に手間取った」という思い出話です。(初出/『二級河川15 古本仁義』)

 

1.パチソンのよさみ

 パチソンとは「本来とは違う歌手が歌っているパチモン」のことで、その中でもアニメ・特撮ソングを指す事が多い。カバーや声優が歌うバージョン違いなどとは異なり、名前もわからないような歌手がほとんどだし、演奏も微妙にヘタだったりする。なぜこういうものが発売されるのかはよくわからないが、たぶん歌手の契約だかなんかの問題があるのだろう。たいていは複数のアニメ・特撮作品がまとめて収録されたオムニバス盤として出ている。
 パチソンは現在でも存在しているようだが、全盛期はカセットテープが主流の70~80年代頃と思われる。パチソンデータベースで確認したわけではないので想像に過ぎないが(というかそんなデータベースは無い)。
 幼少期のおれもパチソンテープはよく聴いていた。自分の知らない番組の主題歌も収録されているのは単純にうれしかったし、アレンジなのか単にヘタなのか判別しがたいパチソンクオリティも、聴き続けているうちに「テレビのとはちょっと違うけど、まあこれはこれで」と思えてくるのだ。時には「歌詞が耳コピらしく間違いだらけ」とか、「ノッてきた歌手がコブシを利かせすぎて、アニソンなのに演歌にしか聞こえない」とか「ヘタクソという概念すら超えた何か」とか、パチモノでは片づけられない級のヤバいものも存在してたらしいが。

 

2.『ゆき』を求めて

 おれが自分のCDラジカセを手に入れたのは中学生の時だった。当時はCDもカセットもほとんど持っていなかったので、レンタルを利用するかラジオを録音する以外となると、家にある音源を聴くしかなかった。両親の音楽コレクションはほとんどがレコードだったので、自分が園児の頃に買ってもらった「アニメまんが大行進」みたいな3本ばかりのパチソンカセットをアホみたいなヘビーローテーションでかけていた。
 当時聴いていたパチソンカセットの収録作を思い出してみると、大人気の『Dr.スランプ』はOP・EDはもちろん、挿入歌の「気分まかせの大発明」「いちばん星み~つけた」等も収録されている優遇ぶりで、他は『めちゃっこドタゴン』『森の陽気な小人たち』等の79年生まれのおれには1ミリも記憶が無いものや、テレビのスペシャル番組で1度放映されたきりらしい『マリンスノーの伝説』のED「海に還る」など、マイナー作も含めまあとにかく何でも詰め込まれていた。
 そうしたパチソン群を何度も聴き返し、巻き戻しているとテープが突然切れたり、リールに引っかかってゴチャゴチャになって伸びてしまったりする。接着剤で強引にくっつけて対処していたが、そんな事を繰り返しているうちにすべてのパチソンテープが修復不可能になってしまった。
 パチソンテープに収録されていた曲の中でおれがお気に入りだったのは、『シリウスの伝説』の主題歌「時よゆるやかに」や、『世界名作ものがたり』のOP「メリーゴーランド・ドリーム」など。前者はすぎやまこういち作曲、後者は山本正之の作詞作曲によるもので、あまり知られていない気もするが、今聴き返してもいい歌だと思う。これらの曲に関する詳細は後年、記憶を頼りに調べたもので、聴いていた当時は曲名すらわからなかったし、『シリウスの伝説』がどんなアニメかも知らなかった。


 2000年ごろ。暇ぶっこいていた大学生時代、友人らのツテでアニソンに触れる機会も増えた。インターネットも普及し始めたころで、カセットのレーベルに書かれていた作品タイトルを頼りに歌詞サイトなどを調べてCDを取り寄せ「あー懐かしい、原曲はこうなってたのか~。今聴いても名曲だしパチソン版も悪くなかったな~」などと思い出に浸っていたのだが、当時いちばん好きだった『ゆき』という作品の曲については、まるで手がかりがなかった。
 静謐なイントロ、のびやかなメロディと共に歌い上げられる、春の訪れを迎える喜び。中学生当時のおれは、イメージ豊かなその歌詞世界にすっかりやられてしまった。今のおれが好んで聴いているようなアニメ・特撮ソングと比べると雰囲気はまったく異なる曲だったが、本家とは異なるパチソンですら、エンドレス再生で聴き惚れてしまうほどだった。
 そんな思い出の名曲なのだが、なにせ手がかりが『ゆき』という作品名だけ。あまりにも一般的な単語過ぎて、2000年当時のおれの検索スキルではどんなアニメかという情報にすらたどり着けなかった。
 うろ覚えの歌詞で検索してもヒットせず、すっかり諦めていたのだが、ある日「これはテレビアニメじゃないよな? おそらく映画だろう」と気づき、映画タイトルデータベースの「オールシネマオンライン」で調べたところ、見事それらしき作品にヒットした(ちなみにオールシネマオンラインはテレビ放映作もフォローしているので、仮にテレビアニメだとしても最初っからここで調べておけばよかったのだが)。

 『ゆき』は1981年公開、虫プロダクション制作のにっかつ児童映画。キャラデザインはちばてつや、原作は斉藤隆介(『モチモチの木』などを書いた児童文学者)。監督は『青い山脈』『ひめゆりの塔』などを撮った超ベテランの今井正である。
 そこから「にっかつ映画 ゆき」などで調べていくうち、件のパチソンの原曲の歌手は「やまがたすみこ」であること、サウンドトラックがレコードで出ていること、ぼくが聴きまくっていた当の曲は「ハナの春」というタイトルであることが判明した。

 

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「ゆき 今井正」で検索すると該当の作品が出てくる。

 

 ここまでわかったのなら、原曲の「ハナの春」を聴いてみたくなるというものだが、これがなかなか難しかった。やまがたすみこのCDアルバムには「ハナの春」は収録されておらず、映画『ゆき』自体も未ソフト化。AmazonにはVHS版のページがあるが、そもそも本当に発売されていたかも怪しい。YouTubeで検索してみると見事「やまがたすみこ ハナの春」というのがヒットしたが(現在は削除済み)、それは映画と同タイトルの劇中歌「ゆき」のほうだった。うーーん…「ハナの春」はCDには未収録らしいし、映画公開当時のレコードをヤフオクかなんかで購入するしかないか。でもそのためにレコードプレイヤーなんて買えないしなあ…レコード音源をデータ化してPCに取り込む方法を探さないと。専用のキャプチャ機器が必要? ていうかそれを代行してくれるサービスもあるのか。とは言えけっこうハードル高いよなあ…。そもそも、きちんと聴ける劣化してないレコードを手に入れられるかもわかんないし…。

 

3.『ゆき』を観る

 などとウダウダしているうちにまた数年過ぎてしまったが、そんな中、映画『ゆき』が川崎市民ミュージアムの映像ホールで放映されるという情報を手に入れた。主題歌しか知らない、ソフト化もされていない幻のアニメ映画…これは見に行くしかあるまい、というわけで川崎まで赴いたのであった。この日のおれのmixi日記を抜粋してみよう。上映日は2007年11月11日。「ミュージアムの食堂で食べたキーマカレー、ベタベタしていて腹に溜まる」などのどうでもいい情報は省いて、館内のホールに入ったところから。

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 入場料600円を払って館内へ。270席のホールに客は10人くらいか。どう見ても俺がいちばん若い。他の観客らが何を求めて見に来ているのかはけっこう気になるところではあった。
 『ゆき』についての詳細はネット上を探してもほとんど見つからないため、ここで概要を書いておく。時は戦国の世、主人公は天界に住む雪じんじと雪ばんばの娘である雪んこである。戦乱にすさぶ下界を嘆いた雪じんじは、「1年以内に下界を真っ白な雪のようにキレイにしなさい」と命じて雪んこを送り出す。下界にたどり着いた雪んこは“ゆき”と名乗ってみなしごたちと仲良くなり、村を良くする為の手助けをするのでした…。
 「まんが日本昔ばなし」的なファンタジーを想像するが、実際は暴力や圧政に苦しむ農民たちが決起して野盗、侍、地主などをブチ殺していく血風戦国絵巻なのであった。主人公よりも農民たちのバトル描写のほうが断然長い。天からやってきた雪んこのゆきは、当然そうした血気盛んな農民らに向かって「もっと他の解決方法があるはずだ」と訴える…のかと思いきや「おら、あいつらが憎い。あいつらは鬼畜生だ」と煽り始め、自ら白馬に乗って悪者どもを蹴り殺す大活躍。ラスト、邪魔者をすべて始末して悠々と生活する村人たちを“神人様(シンジンサマ)”と呼ばれる神の怒りが襲う。度重なる地震に井戸水は枯れ、火山は噴火の兆候を見せる。村を救うために火山へ向かったゆきが火口に向かって高々とVサインすると、溶岩の中から体長200メートルはあろうかという神人様(まんま大映の大魔神)が出現、巨大な刀を振るって襲いかかる。対峙するゆきは最終奥義エターナルフォースブリザードを発動、神人様を粉々に砕いて見事勝利。下界に平和を取り戻したゆきは、天界で幸せに暮らしましたとさ。ラスト15分くらいの展開は未だによくわからない。
 肝心の「ハナの春」に関しては前情報どおり、劇中で流れることはなかった。しかしインストがBGMで流れていただけでも収穫だったと思える。あの曲が実際に聞けたってだけで、個人的には満足なのでありました。やまがたすみこの歌も初めて聞いたが、実にイイ声の人である。『ゆき』だけでも劇中歌がいろいろあるようなので、なんとかしてCDリリースしてもらいたいよな~。
 しかしこの映画、天下の虫プロダクション製作であるのに、ビデオすらでていないのはどういうわけであろうか。“こじき”という単語が全編に飛び交うこととか、ヒロインの目が死んでいてかなり牛山サキ(『ギャグ漫画日和』)に近いこととか、いろいろ思い当たる点はあるのだが。

  ウケ狙いで大げさに書いている感も拭えないが、だいぶアグレッシブな映画だったことは確かである。『ゆき』については、あらすじ以上の情報はネットにもほとんど無く、今となってはおれもかなりうろ覚えだが。ともかく、期待していた「ハナの春」についてはインストゥルメンタルでしか聴くことができず、すっかりあてが外れてしまった。正直な話『ゆき』がDVDだのブルーレイだので出る可能性も低そうで、こうなるとあとはやまがたすみこのCDに期待するしかなかった。

 やまがたすみこは、70年代~80年代前半を中心に活躍したシンガーソングライター。アニメ関連の仕事は『ゆき』以外では世界名作劇場の『南の虹のルーシー』くらいしかない。CMソング、テーマソングの類は非常に多いようだ。自作のデビュー曲「風に吹かれて行こう」を出した時はまだ高校生であったというから、とてつもない才媛である。2000年代に入ってからもベストアルバム系はぽつぽつとリリースされていたので、『ゆき』関連の曲もなんとか収録してほしいと願ってやまなかったのだが…。

 

4.すみこレアリティーズ

 こうなったらもう、素直に『ゆき』のレコードを買うしかないだろうと、ヤフオクに「ゆき やまがたすみこ」でアラームを登録。出品は多くはなかったものの、プレミアがついているというほどでもない。レコードの音源化を代行してくれるサービスについても調べたが、思ったほど高くはないなという感想だった。まずはレコードを落札してみるか!
 …と考えているうちに、今度は5年の日々があっという間に過ぎ去った。ぼくの不精のせいもあるし、映画を観られたことで、わりと満足してしまったのもある。本当なら「そして2013年、ついに『ゆき』の楽曲がすべて収録された待望のアルバム『すみこレアリティーズ』の発売がアナウンスされた。さっそく予約し、発売日を心待ちに…」などと書きたかったのだが、ぼくがこのアルバムの発売を知ったのは 2015 年になってからであった。なんだかすみません。

 会社でのネットサーフィン(サボリ)中、「そう言えばハナの春、あれまだ音源化されてないのかなあ。お宝音源アルバム、みたいなコンセプトで出ないかなあ」とぼんやり考え、「やまがたすみこ ゆき」でAmazon検索したらそのものズバリが発売されていたので、一瞬目を疑った。「目を疑う」ってこういうシチュで使うんだなとも思った。むろん即ポチりましたよ。

 

すみこレアリティーズ-Theme&CM Songs

すみこレアリティーズ-Theme&CM Songs

 

 

 『すみこレアリティーズ-Theme&CM Songs』には、オリジナルアルバムに未収録のレア音源が集められている。『ゆき』の関連曲は「ハナの春」「ゆき」「夢にむかって」「いつしか愛は」の全 4 曲。『南の虹のルーシー』のOP・ED・挿入歌の他、クノール・スープやユニデン化粧品のCMソング、つくば科学万博の住友館のテーマソングといったものも。
 作詞・作曲は曲ごとに別々だし、CMソング・テーマソング・アニメソングとバラバラなのだが、不思議と寄せ集めのような印象はない。透明感があり、伸びやかな彼女の歌声をじゅうぶんに堪能できる。
 「ハナの春」のオリジナル版。ようやく、初めて、このCDで聴くことができた。

 

花よ つぼみの花
春に目覚める みなしごたちよ…

 

 少年時代に聴き惚れたあのメロディ、歌詞が完全な形でそこにあった。「聴き慣れていたパチソンバージョン」にあった良さをすべて内包して、さらにその上を行くさすがの歌唱力。名曲は誰が唄っていようと名曲であること、それはそれとしてオリジナルはやはり素晴らしいこと、なおかつ、改めて今は失われた(テープが伸びきって修復不可能になってしまった)パチソンバージョンの方ももう一度聴いてみたいこと。10何年ぶりかのアニソンを流しながら、そういうことを考えておりました。

 

【特集】今年読んだニンジャスレイヤー2017

 1月6日まで2017エピソードン投票をやっているというので、なんか振り返ってみました。(ニンジャ知らない人置いてきぼりです)今回は4作選べるらしいので、今年のおれのベスト4を。


1.【ザ・グロウ】
 女アサシンニンジャ、レッドハッグの過去を描いたスピンオフ。note掲載エピなうえ、1年近く連載していたので読みとおした人は少ない気もするが、これは「読むべきエピ」です。【ニンジャ・サルベイション】とか、あの辺の涼しい話が好きな人にはたまらんものがあります。結末を読んでない人のために「デモンハンドいいよね」「いい…」くらいしか言えません。
 つーかレッドハッグ、ニンジャになってからのほうがよっぽど楽しそうだな~という印象。35歳の女アサシン(近接)なんて、確かに身の振り方を考える時期だよな。この【ザ・グロウ】のあとに【レッド・ハッグ・ザ・バッド・ラック】だの【ザ・ドランクン・アンド・ストレイト】みたいなエピが来るのだと思うと、ほんとニンジャになって吹っ切れたのだなと。

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2.【ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル】
 ニンジャの仲間たちとの出会い、敵ニンジャ組織の暴虐、両者総出の対決…という話の流れが美しい、お手本のような話。新たな仲間を得たバイオニンジャ集団、サヴァイヴァーズ・ドージョーことサワタリ・カンパニーの活躍が見られて嬉しかった。こいつら好きなんだよね。

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3.【ハイヌーン・ニンジャ・ノーマッド
 サムライニンジャスレイヤーことキルジマ・タカユキを主人公にしたスピンオフ。ニンジャスレイヤーは連載が続くにつれて様々な味方・仲間も加わっていき、それはもちろん頼もしくもあるが、作劇という点では枷になってしまいかねなかった(それが悪いというのではなく、そーなってしまうよねという話)。この時代劇スピンオフ、殺伐と復讐の孤独行という初期作の雰囲気がまんさいで痺れる一編。正午・ニンジャ・流れ者…。

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4.【アイアン・アトラス】

 頭は悪いが友情には篤い、ジャイアニズム溢れるニューヒーロー・アイアンアトラスの登場だ! 続編【アイアン・アトラス・テイクダウン!】もだいたい同じ内容だ! 本当にあたまわるいシリーズでヤンマガ感があります。

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 その他、今年のエピを順不同で個人的に振り返る。

 

■本編シリーズ・シーズン1
【ストーム・イナ・ユノミ】/【ダメージド・グッズ】/【ザイバツ・シャドーギルド】/【カロウシ・ノー・リモース】/【ソウカイ・シンジケート】/【ウィア・スラッツ、チープ・プロダクツ、イン・サム・ニンジャズ・ノートブック】/【オラクル・オブ・マッポーカリプス】

 ニンジャスレイヤーとピザタキの仲間たちが繰り広げるメインストーリー。シーズン1が今年で完結し、すでにシーズン2も始まっている。毎回見せ場はあるし実際面白いのだが、続き物の側面が強く、どれかをピックアップするとなるとたいへん悩んでしまうため、今回の4選には入らなかった。とはいえトンチキバトルの極み【カロウシ・ノー・リモース】、ソウカイヤとザイバツの死闘というありそうで今までほとんど描かれなかったシチュエーションが燃える【ソウカイ・シンジケート】、洒落者で酒飲み、詩人にて風来坊、力は弱いが弁は立つ新たな仲間・コルヴェットが登場する【ザイバツ・シャドーギルド】などはかなり好きです。

 

■【エリミネイト・アナイアレイター】

 第3部で活躍したニンジャ愚連隊「サークル・シマナガシ」のメンバーたちのその後を描く。見どころありすぎな1編ですが、やっぱ心に残るのはかつては反骨心あふれる若きニンジャだったスーサイドの姿。成長し、舎弟もでき、それなりのポジションを得た彼は、もはやヤンチャのできる立場ではなくなっていた…という悲哀。久しぶりに出会ったかつての仲間たちも、立場こそ違えどもその芯は変わらない“相変わらず”な姿を見せてくれるところが嬉しくも物悲しい。


■【ピルグリム・ダークウォーター】
【リンボの章】/【ミエザルの章】/【殺生石の章】/【シノリ・ユウモインの章】
 高潔なボンズにてニンジャのアコライトが、「死にたがりニンジャ」「下劣透明ニンジャ」「超下劣ドブ煮込みニンジャ」と共に旅立つニンジャ西遊記。癖があり過ぎる仲間たちに殺伐の極みたる大地、アコライトの苦悩の巡礼は続く。章ごとに完結してはいるがこのシリーズ自体はまだまだ続きそうで、いまだ着地点が見えない。

 

■デッドリーヴィジョンズ
【バトル・ウィズアウト・オナー・アンド・スシ】/【サムズ・オブ・デス】/【ブラック・ストライプス】/【アイス・クラッシュ】

 「ニンジャとニンジャのバトル」にのみ注視したnote連載シリーズ。個性的な敵とそのジツにニンジャスレイヤーはどう立ち向かうのか? という、バトル漫画のトーナメント戦ばりにムダを極力省いた短編集。こういうのは永久に読んでいられますね…。
 1編取り上げるなら【ブラック・ストライプス】。夏の砂浜でニンジャスレイヤーと対峙するは、黒い縦縞の入った緑色装束のニンジャ、その名は…ブラックストライプス!(まんまだ) 特殊ドトン・ジツと催涙ガスで姿をくらますブラックストライプスに対し、ニンジャスレイヤーは「心の眼(ナラク・ニンジャのアドバイス)」と手にした「棒」で立ち向かう! 夏のレジャーも忍殺にかかればこうなってしまうというトンチキ掌編。

 

■【ドラゴン・ドージョー・リライズ】
■【アット・ザ・マウンテン・オブ・ブッダネス】
■【ビフォア・ザ・ストーム・ゴーズ・アウェイ】
■【スロー・ア・シュリンプ・トゥ・キャッチ・ア・シーブリーム】
■【サヴァイヴァーズ・デスパレート・エクスペディション】
 いずれもnote掲載作。「第3部までで活躍したあの人たちは今?」というかつてからの読者なら間違いなく盛り上がる話なんですが、こーゆーのをtwitter連載でワオワオ盛り上がれればいいかなという気もしないでもないです。
 文字通り、ドラゴン・ドージョー再起のためにユカノががんばる【ドラゴン・ドージョー・リライズ】はニンジャバトルがない珍しい回。「経営」「経済」という新たな戦いに挑むのだ。


■【ヴェックス・オン・ザ・ビーチ
 デッドリーヴィジョンズめいた短編の1つだが、主人公が【ソウカイ・シンジケート】で初登場したヤクザニンジャ、ホローポイントという点が独特。彼は自分が殺した赤肌ツノ付きの悪魔ッ娘ニンジャ、ディアボリカの幻影に終始悩まされているのだ。ヤクザとアクマと真夏のビーチ、この雰囲気だけで“勝ち”の一編。


■【サーチ・アンド・デストロイ】
■【ストライダー・ジ・オリジン】
 強くてかしこいニンジャドッグ、ストライダーが主役の短編。ストライダーはニンジャスレイヤーの協力者の1人(匹)で、連載で初登場した回がとんでもなくツッコミどころの多い怪作だったが、スピンオフエピソードはなかなかにハード犬ボイルドで良い。ほぼ高橋よしひろ作品です。


■【テラー・フロム・ディープ・シー】
 タコのニンジャが豊満に絡みついて大変なことになるとかいうB級映画のアトモスフィアが満載のいつものアレですが、しょうもない話を抜群の臨場感と詩的な言い回しで書きつくすこのスタイル、是非見習いたいものです。


 結論としては「ニンジャスレイヤープラス購読する価値あるよ!」というアレになります。長期連載になりそうな【クルセイド・ワラキア】、これもまたヨイんですよ。吸血鬼の城を巡るモダンホラーの雰囲気濃厚な幕開け、城攻略のために集められたニンジャ傭兵たちの「全滅前提」っぽさ…。今までニンジャ名鑑にしか名前が出てこなかったツインテイルズ=サンの登場もうれしいですね。語尾に「ニャー」を付けるアザトイながらもわかりやすいキャラで、いろんな人がウキヨエ挙げてますが多様性の良さがあります。3部時点でフジキドと交戦してるんだから、今はけっこういいトシ(どんなに若く見積もっても25歳前後)のはずなのにニャーとか言ってるのも良いですね。いじょうです。

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