ジャッカルの日

漫画・ゲーム・映画・怪奇についてバカが感想と考察を書く

2020年よかったまんが10選(旧刊編)

 旧刊編ってのもなんかヘンだな。2020年に連載終了してるまんがの中でよかったやつです。

 

1. 秋津(室井大資)

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 ダメ過ぎる中堅漫画家・秋津に振り回される周囲の人々(息子、アシスタント、編集、同業者)の苦労とかを描くコメディ。性格が終わっているうえに仕事もまあまあ不真面目、「なんとなくギリギリ」で業界を生き抜いている秋津先生にシンパシーを感じてしまったので自分ももうダメです。

 


2.さそり(篠原とおる)

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 非道の女囚人があの手この手で看守や他の囚人たちを手玉に取ってえらいことになってしまうというジョジョ6部をはじめとするあらゆる女囚モノの元ネタ(多分)。主人公「さそり」の孤高のマシーンぶりが良すぎる。映画版は梶芽衣子が主演で、タランティーノがアレしていたとかいうのでいつか見たい。続編『SASORI in U.S.A.』はまあまあコレジャナイでした。

 

 

3.ぼくらの時代(コンタロウ)

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 『1、2のアッホ!!』のコンタロウ先生が描くオムニバスもの。恋に友情、スポーツに勉強、ぼくらは青春まっさかりで~~す! みたいな学園ドラマを想像していたが、まっっっっっっったく違った。いや、中にはそういう感じのイイ話もあるのだが、悪い意味で心えぐられる回も多く、往年のギャグ漫画の名手たる作者のダークな部分に翻弄されっぱなしだった。マジで1巻だけでもいいから読んで! 絶対驚くから!

 

 

4.超常機動サイレーン(井原浩士)

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 ぴっちり系パワードスーツを着込んだ公務員ヒロインと、悪の組織の博士がひょんなことから恋に落ちて…!? という特撮パロディもの。かと思いきや、正義と悪の両組織の「いかにも実在していそう」なリアルさがよい。基本の世界観をギャグで逃げたりせず真向に描いているのは好印象。ロボットアニメにおけるパトレイバーみたいな立ち位置。これは本当に拾い物でした。

 

 

5.絶叫大予言(谷間夢路)

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 エゲツない、教訓ない、カタルシスもない最高のホラー短編集。「奇想」と言うと褒めすぎなデタラメな倫理と論理、ホラー漫画に求めているものがすべて入っている。天才としか言えない。谷間夢路・出井州忍もkindleでいろいろ読んだけど、電子書籍にできる限界を超えすぎてる作品もまだまだあるらしいので普通に集めたい。

 

 

6.極悪伝(みなもと太郎)

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 ヤクザの親分とその子分が、誰も来ない山奥の組事務所で商売に精を出したり、ダラダラしたり、殴り合ったり、ホモセックスをしたりして過ごす様を延々と眺めていられるギャグ漫画。下ネタとパロディとナンセンスの嵐で、なんの教訓もないため安心して読んでいられる。エロ劇画誌に連載されていたのに男の裸しか出てこないので、毎回表紙だけエッチな絵が描かれているが何も中和できていない。

 

 

7.ストリートライダー(しもさか保)

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 『ガクラン八年組』のしもさか保先生のベストワークと思われる公道バイクレースもの。さまざまなライバルたちとテクニックを競いつつレースで勝負、という王道すぎるストーリーなのに、劇中で披露されるテクニックが「真似したら即死」レベルのデタラメの連続で非常に盛り上がります。面白けりゃいいんだよの無責任エンタテインメント精神の極北! マンガ図書館Zで無料公開中。

 

8.妖あどろ(川崎三枝子)

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 レディース漫画の大家、川崎先生の初期作品。新宿の女不良・麻利亜が愛するチベット僧に超能力を授けられ、ジャングルで死から甦った女ターザン「あどろ」を殺害するためアメリカとソ連の軍隊と死闘を繰り広げるという…。要約すればするほど、その詰め込みっぷりに驚愕する異形のスケバンサイキック漫画。すべての展開がここまで予測不可能なまんがを久々に読みました。傑作にして怪作。

 

9.蛮勇なり(笠原倫)

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 原発事故により無法地帯となった関東を舞台に繰り広げられるバイオレンスSF任侠アクション。全3巻とコンパクトではあるが描くべきことはすべて描き切っており、最終巻ラスト1ページもまた痛烈に格好良い。山口貴由の傑作『蛮勇引力』にも影響を与えただけはあり、全編ハイテンションと外連味の塊でとにかく熱いのです。

 

 

10.シャングリラ(梶研吾・岡村賢二)

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 近未来の日本! 支配者・白鳳を倒すため、己の拳法を武器に立ちあがった主人公・獅子吼は、運命を共にする6人の仲間たちを探すために旅立つのであった。アイデア満載のグロ描写をエンタテインメントに昇華したSFバイオレンスアクション(またか)。この手の漫画にありがちな打ち切り・尻すぼみに陥ることなく(最終巻はちょっと駆け足ではあるが)ちゃんと完結しているのも好印象。

 

 以上です。あとはボンボン連載ながら幻のトラウマ作『迷宮神話 はじけて!ザック』(井上大助)、キチガイ野球漫画のホームラン王『あらしのエース』、グルメバトル漫画のお約束を作者自ら解体・再構築した傑作『ミスター味っ子Ⅱ』(寺沢大介)、適当すぎる展開が別な意味でスリリングな『天より高く』(宮下あきら)、今こそ再評価すべきセックスバトル大河『やる気まんまん』(牛次郎・横山まさみち)、読者への悪意100パーセントで構築されたクソ鬱漫画『四丁目の夕日』(山野一)、グルメ漫画なのに料理の感想が「旨ぇーっ!」しかない傑作『ザ・シェフ』(剣野舞・加藤唯史)、原作アレンジの上手さに舌を巻いた『スペクトルマン』(一峰大二)、今更読んだけど普通に面白くてパンツも良かった『鬼神童子ZENKI』(谷菊秀・黒岩よしひろ)、週チャン伝説の作品と言われるだけはある熱意の籠った怪作『スナッチャー窃』(高木章次)、青春モノとして同作者の作品の中でもピカイチじゃないかと思う『男花田秀治郎』(どおくまん)、ハードボイルドが行き過ぎてただの殺人鬼と化している快作『野獣警察』(西塔紅一・みね武)、69歳のジジイが若返り薬を飲んでバカどもをブチのめしていく痛快ヤクザアクション『69デナシ』(山本康人)、日本にノルウェーのシシャモを輸入するきっかけを作った実在の偉人の伝記を小池節でアレンジした結果、世界中の美女が死にまくる話になってしまった『魚CRY』(小池一夫・片山誠)など面白いまんがはたくさんあったのでまんがは面白いので良いと思います。

2020年よかったまんが10選(新刊編)

 今年は例年以上に籠り生活を続けていたせいか、わりとまんがを読んだ気がします。現在も連載中、あるいは2020年内に完結した作品からおもしれ~~のを選びまんた。よかった。

 

1. LV1魔王とワンルーム勇者(toufu/芳文社)

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 未熟な状態で復活した魔王が、かつて自分を打ち斃した勇者のもとへと向かう。しかしかつての英雄は無職のゴクツブシとしてだらだら生きていたのであった!

 なぜか勇者にベタ惚れになっている魔王とのイチャイチャ生活、というなろう小説の亜種みたいな話。それだけにとどまらず「かつての勇者一行になにがあったのか」という謎が少しずつ提示されいくし、キャラも全員が魅力的。現代日本に強引、かつ無理なくファンタジー要素を放り込んだ世界観もありそうでなかったモノ。いろんなジャンルの漫画の要素が奇跡のようにまとまっている快作。

 

 

2.忍者と極道(近藤信輔/講談社)

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  特殊能力を持った忍者と極道がひたすら殺し合う、侠気と狂気のボルテージがぶち切れたハイパーテンションバトルまんが。「新キャラが登場してはバトルして死んでいく」という少年漫画のもっとも使い古されたパターンを真正面から描き、ここまで面白くしてるのはスゴいことである。重要そうなキャラが出てきてはかなり早い段階で死んでいくが、単なるコケ脅しではなくしっかり役目を終えてから退場している。短くも太い生きざま見せたる!という心意気を感じるテンポの良さ。

 

 

3.放課後スイッチ(井上とさず/講談社)

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 女子高生同士がいろいろ仲の良い様子を見せてくれる学園まんが。ヤッッッッッバいんですよ、これ。1話1話がハイカロリー過ぎて、まとめて読むと「ニチャァ...」とキモい笑顔になってしまいかねない。本当にいけません。15ページくらい読んでは「キャー」と赤面して顔を覆ってからまた読み始めている。

 

 

 4.パペラキュウ(松永豊和)

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 作者の個人サイトで2011年から掲載されていた作品。今年の9月に全110話で完結した。

 頭に手足が生えてくる「パペラキュウ病」の少年を巡る、子供同士の小さないざこざがいつしか国家を、そして人類全体をも巻き込む事件へと発展していく。序盤の一発ネタみたいな描写がみごとに伏線回収されていく第3部の展開などは、リアルタイムで読み進めていた人にとってはかなり痛快だったのではなかろうか。終盤は以前の話のコピペ展開が多くちょっと辟易したが、それでもこの最終回ですべて許せてしまう。唯一無二のユニークな「宗教まんが」としても外せない一品。

toyokazu39.at-ninja.jp

 

5.鬼滅の刃(吾峠呼世晴/集英社)

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 アオイちゃんが好き。

 

 

6.怪獣8号(松本直也/集英社)

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 怪獣災害が頻発する日本。ひょんなことから怪獣の力を身に付けた主人公・カフカは、怪獣やっつけ隊の入隊試験に挑むのであった。

 ぶっちゃけた話『ジガ -ZIGA-』と大筋は同じなのだが、主人公(30代)の陽キャラさ、わかりやすくも魅力的な相棒にライバルと、読んでて応援したくなる要素が満載で熱くなれます。唯一の難点は怪獣がクリーチャー過ぎることくらい(もうちょいケレン味があってもいいと思う)。

 

 

7.少女聖典 ベスケ・デス・ケベス(ルノアール兄弟/秋田書店)

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 並の人類をはるかに凌駕する超弩級ムッツリスケベの女学生・ゆいかはスケベ心を司る悪魔「ケベス」を顕現させてしまう。毎回ろくでもないことをしでかるケベスだったが、ゆいかも相当なのでお互い様なのであった。

 心の底からしょうもないチンポネタの数々はすでに「文化」「芸術」の域に達している。正直な話、読み返した回数で言えば今回紹介したまんがの中ではぶっちぎりのトップです。チンポは何回読んでも面白い。

 

8.怪異と乙女と神隠し(ぬじま/小学館)

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 都市伝説系のホラーまんが。主人公がちょっぴり太目で太眉ジト目の28歳で小説家志望の書店員、という要素過多ぶりで「ごちそうさま」としか言えない。既刊2巻でこれからどう転ぶかちょっとわかんない部分もありますが、個人的には大注目しております。

 

9.僕とロボコ(宮崎周平/集英社)

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 「はいはい、またコレ系のギャグまんがか~~」と連載開始前は思っていたものの、秀逸なパロディ、実は達者な画、嫌味が無く好感持てるキャラ達と、ジャンプのストーリーギャグ枠としては完璧な一品でした。毎週楽しみ。

 

10.SHY(実樹ぶきみ/秋田書店)

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 悪と戦う「ヒーロー」が世界各国に存在する時代。日本を代表するヒーローの正体は、超恥ずかしがり屋の女子高生であった!

 『ヒロアカ』『ワンパンマン』だのがヒットをかましている今、ある意味難しい題材に真正面から挑んだ週チャン連載作。派手さや痛快さとはあえて別のアプローチでヒーローを描いており、繊細な心情描写が光る。どういう着地をするのかかなり気になる展開で、願わくは作風をブレさせることなくラストまで描ききってほしいなと。

 

 以上です。次回は「新刊じゃない編」を…。

『新』と『牌』ーゲッターロボ二題

 『新ゲッターロボ』全話視聴。最終回を観ていると自然と涙が溢れてしまった。泣かせようとしてる場面は一切無いのに。

新ゲッターロボ

新ゲッターロボ

  • メディア: Prime Video
 

 いわゆるゲッターロボサーガとは独立した世界観だが、ストーリー展開も含めて石川賢リスペクトの気概に溢れている。漫画版『ゲッターロボ』に寄せたガサついた画風も特徴で、デジタル特有の妙にヌルっとした動きが時おり気になるものの、制作陣の熱意はなかなかに感じられる。ムサシとベンケイが「武蔵坊弁慶」という1人のキャラにまとめられたのも英断。『真ゲッターロボ 世界最後の日』のインパクトから抜け切れていない感はあるのだが(『世界最後の日』以降でその影響を受けていないゲッター、漫画アニメ問わず皆無じゃない?)、竜馬・隼人・弁慶のみならず早乙女研究所の面々もほぼすべて超好戦的&悪人フェイスのバーサーカーぞろいという突き抜けっぷりはなかなかの個性だと思う。

 

 
 最終回、別に感動するような展開があるわけではない。ネタバレしてしまうと、ラストは「無限に続く戦いの次元へ…」といういつものアレなのだが、最終回13話冒頭、圧倒的なパワーを持って四天王(つい3話前にポッと出てきた最後の敵)を叩き潰すゲッター1の無双ぶりを見ているとなんだか泣けてきてしょうがなかった。
 「圧倒的な暴力」というのはおれの泣きのポイントの1つで、例えばゴジラが例のテーマと共に現れて暴虐の限りを尽くすシーン…比較的最近だと『シン・ゴジラ』の第三形態後とか、『GODZILLA ゴジラ』(2014)のハワイ上陸時とかを観ていると、自然と涙が溢れてくるのである。それはもう滂沱の如く。感情的には何かというと「畏敬
」がいちばん近いかもしれない。デカいものが暴れているとそれだけで感動してしまう。ふだん信仰心のカケラも持ち合わせていないぶん、神的存在への渇望が深層意識にあるのかもしれない。

 おれは別に『ゲッターロボ』全作品を履修しているわけではなく(そもそもテレビ版『ゲッターロボ』『ゲッターロボG』は未視聴)、コミック版も號だのアークだの飛焔だのDEVOLUTIONだのの抜けがたくさんあるのでニワカもいいところなのだが、それでも『ゲッターロボ』は自分の中で特別な作品だ。ロボットものに必要なのは正義の心がどうとかではなく、圧倒的な暴力でもって敵を絶対にブッ殺すという強い意志であるというムチャクチャなエゴがすべてのシリーズに貫かれているからだ。石川賢という稀有の才能によるオリジナルを超えるべく、多くのクリエイターが奮闘している様がどのシリーズ作品からも感じ取れる。なんかこの辺のことを「作品自体もゲッター線と共に進化している、それこそがゲッターである!」みたいに中身皆無だけどうまいことを言ったふうの締め方をすればこの稿もまとまるのだが、しないのである。

 

 

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 とりあえず何か読もうかと、電子書籍になる気配のない『ゲッターロボ牌』(脚本・森橋ビンゴ、作画・ドリル汁)を買いまんた。海底人類アトランティスがオリハルコンで精製された巨大兵器・ハイビーストに搭乗し地上へ侵攻。ハイビーストを砕くには乗り手の精神的な動揺を誘うしかない。そしてアトランティスは麻雀が好きだった! というわけで、麻雀で戦うゲッターロボが誕生したのである。

 

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信頼できる絵柄

 

 パイロットが全員美少女で相当にフェチ全開と言うのは『偽書ゲッターロボダークネス』をも凌ぐ好き放題っぷり。ゲッタービームと称して巨大な牌で敵をブン殴るデタラメさは気持ちよく、ラストのもはやお約束とも化した超展開などは「少しも理解できないけどなんだかスゴいものを読んだ」という満足感を与えてくれる。
 難点はぜんぜん麻雀してないことだろうか。どんな手を狙っていてどんな駆け引きが行われているのかさっぱりわからず、「麻雀的な要素をちょこっと入れたロボットモノ」になってしまっている。本作のパワフルさもシリアスさも、バトルをもう少し麻雀寄りにしたとて薄れたりはしなかったと思うのだが。ただ逆に言えば麻雀をぜんぜん知らなくても問題なくノリで読めるので、そこはプラス点でもあります。

 

スパロボにも出たし乳も揺れた